引導渡された“従北”野党、韓国憲法裁から史上初解散命令
北朝鮮の理念や体制に共鳴する“従北”路線が問題視されていた韓国極左野党・統合進歩党(以下、進歩党)に対し、韓国政府が申請していた政党解散審査について同国の憲法裁判所は19日、解散を命令する判決を言い渡した。司法による政党の強制解散は韓国憲政史上初。“従北”勢力は韓国内で合法的な活動基盤を大きく失うことになった。(ソウル・上田勇実)
逮捕者出た統合進歩党 「民主主義転覆図る」
所属国会議員5人も職剥奪/専門家「北の対南工作は継続」
韓国政府が進歩党に対する政党解散審査を請求したのは昨年11月。同年9月に内乱陰謀罪や国家保安法違反などの容疑で逮捕・起訴された進歩党の李石基議員の事件が直接の引き金となった。
李議員は自らが率いたとされる地下組織「R.O(革命組織の英語表記頭文字)」の会合で、韓国を打倒対象、北朝鮮を追従母体とみなし、北朝鮮が韓国に対し威嚇をエスカレートさせていた時期に合わせ国内での「戦争準備」を呼び掛け、実際に会合参加者と通信など基幹施設の破壊計画を謀議していた疑いが浮上した。
憲法裁は判決で「被請求人(進歩党)の主導勢力は北朝鮮に追従し、彼らが主張する進歩的民主主義は北朝鮮の対南(韓国)革命戦略とほぼ全ての点で一致あるいは類似」していると指摘した。
また進歩党について「韓国社会は特権的支配階級が主権を握る逆さまの社会だという認識の下、暴力を使って自由民主主義の体制を転覆させ、憲法制定による新しい進歩的民主主義体制を構築し、政権を握るという立場」にあり、これは「李石基などの内乱関連事件で現実のものとして確認された」と述べた。
その上で判決は「合法政党を装い、税金で相当な額の政党助成金を受けて活動しながら、民主的基本秩序を破壊しようという被請求人の固有な危険性を除去するためには代案がない」とし、9人の裁判官のうち8人の賛成で政党解散を命じた。
判決は、李議員をはじめ地域区と比例代表で選出された国会議員5人に対しても「解散される違憲政党の所属国会議員の議員職が維持された場合、その政党が存続するのと同じ結果をもたらす」として、議員職剥奪を命じた。
今回の判決で、進歩党と同様の綱領や活動を目的とする政党の立ち上げも禁止される。
韓国中を騒がせた“従北”問題である上、司法による政党解散審査という重大案件であったため、判決の模様は法廷内に直接マスコミのカメラが入り、中継されるという異例の関心の高さも見せた。
進歩党については、一昨年の総選挙で李議員ら同党議員に“従北”疑惑が浮上した直後にも要請があり、専門家らを交えて政府が検討してきた。また、そもそも同党前身の民主労働党に対する同様の要請も保守系団体が数回にわたり行ってきている。
北朝鮮の対南工作機関として知られる225局の指令を受けた北朝鮮工作員の活動に、同党が深く関わってきた可能性が以前から取り沙汰されており、治安当局は北の対南工作を幇助(ほうじょ)する危険な政党という認識を持ってきた。
判決直後、同党の李正姫前代表は記者団を前に「話すことの自由、集まることの自由が根こそぎ否定される暗黒の時代が再び始まった。朴槿恵政権が大韓民国を独裁国家に転落させた」「進歩政治を諦めない」などと反対の弁を述べた。左派系メディアも「多数に反するという理由で少数政党に死刑判決を下した」(ハンギョレ新聞社説)と加勢している。
一方、同党の“従北”疑惑を厳しく批判してきた保守系メディアは「理念の多様性は守られなければならない価値だが、自由民主主義の敵にまで寛容であることはできない」(東亜日報社説)と判決をおおむね歓迎している。
今回の判決は李議員の裁判にも影響を与えるのは必至だ。一審は内乱陰謀罪などを認め懲役12年・資格停止10年を言い渡したが、控訴審では内乱扇動罪と国家保安法違反のみが認められ懲役9年・資格停止7年を宣告。現在、上告審が行われている。
ただ、今回の判決で韓国の“従北”問題が終結したとみるのは早い。この問題に詳しい柳東烈・自由民主研究院長は「しばらくは“従北”活動がさらに地下にもぐり、北朝鮮による合法的な対南工作も制約を受けざるを得ないが、志を同じくするメンバーが既存の左派系政党に入ったり、表向きには理念と関係ない政党や団体を作るなど、“従北”活動を継続する方法は残っている。北の対南工作に対する警戒は怠るべきではない」と警鐘を鳴らした。






