金第1書記による統治安定誇示? 対話はジェスチャーか
早くも首脳会談期待論
北朝鮮の最高指導者・金正恩第1書記の最側近3人が先週末、電撃的ともいえる日帰り訪韓をした。なぜこのような形で訪韓したのか、目的は何だったのかなど韓国では諸説紛々だ。気が早いマスコミは南北首脳会談への期待感までにじませている。(ソウル・上田勇実)
北大物3人訪韓の意味
黄炳端・朝鮮人民軍総政治局長、崔竜海・国家体育指導委員長、金養建・朝鮮労働党統一戦線部長の3人を含む北朝鮮代表団11人が4日、平壌から空路韓国入りした。3人は現在、北朝鮮の最高権力層の一員で、いずれも金第1書記に最も近い大物たち。一人だけ来たとしてもビッグニュースなのに3人もまとめて来たため、韓国はもちろん周辺関係国を驚かし、耳目を集める効果は十分だったと言える。
北代表団の訪韓は前日3日に急遽(きゅうきょ)打診され、その日のうちに決定されたというが、これも電撃的スタイルで相手を自分たちのペースに巻き込もうとする北朝鮮らしいやり方だ。テレビを中心にした韓国のマスコミは、謎に満ちた最側近たちの動きを空港到着の場面から車での移動、会談の様子などに至るまで可能な限り取材し、これをリアルタイムで伝えた。余裕さえ感じさせる悠然とした態度で談笑し、相手を立てる“紳士ぶり”が画面に映し出された。この時点ですでに北朝鮮ペースに“はまった”感は否めない。
この時期、最側近が3人も同時に訪韓した背景について、韓国ではおおむね二つの見方が出ている。一つは、ここ1カ月動静が途絶えていた金第1書記をめぐり健康不安説や体制動揺説、はたまた側近幹部による軟禁説まで飛び出す事態となり、それらを払拭する必要があったというもの。金第1書記の右腕格とされる黄氏と崔氏が「国を空けた」としても金第1書記による統治は安定していることを誇示したのではないかという分析も見られる。
そしてもう一つは、訪韓した10月4日という日が北朝鮮にとって特別な意味を持っていたことだ。7年前のこの日は、盧武鉉大統領と金正日総書記による南北共同宣言が発表された。金第1書記が最近、スポーツ振興を強調している中、偶然にもこの日は仁川アジア大会で閉幕式が行われ、北朝鮮国家代表も好成績を残したので激励する「名目」も立ち、訪韓しやすい。閉幕式出席を口実に南北対話に「前向き」であることをアピールする格好の場になった。
ただ、北朝鮮がどこまで真摯な姿勢で韓国との対話に臨もうとしているかは疑問だ。10月4日の共同宣言は北朝鮮主導の南北統一に道を開いたとされる2000年の南北共同宣言の精神を踏襲しており、北朝鮮にとっては南北関係における金字塔を打ち立てた日だ。年初から「統一大当たり論」で事実上の韓国による北朝鮮吸収をぶち上げていた朴槿恵政権への「回答」とも受け取れ、対話は単なるジェスチャーである可能性もある。7日には北朝鮮警備艇が黄海の軍事境界線を侵犯し、一時は南北が交戦状態にもなった。
ところで今回、北代表団と朴大統領との会談は実現しなかったが、韓国側が提案していた高官級協議の再開で合意し、早くも南北首脳会談への期待感が膨らんでいる。大手紙・朝鮮日報は黄氏が「金正恩第1書記の温かいあいさつを朴槿恵大統領に伝える」と発言したことなどを「首脳会談の前兆」と報じた。






