「創造経済」で韓国版地方創生
朴大統領、大企業が縁故地で起業支援
先インフラ・後アイデアに懐疑論も
韓国の朴槿恵大統領はこのほど、自らの主要公約の一つである「創造経済の活性化」で成果を上げるため、大企業が全国の縁故地でベンチャー企業などを支援するというユニークなプロジェクトをスタートさせた。だが、先にインフラを整え、その後アイデアが生まれるのを待つというやり方には懐疑的な見方も出ている。(ソウル・上田勇実)
朴大統領は15日、大邱(南東部)で「創造経済革新センター」の発足式に出席し、大企業がその縁故地である全国17の市・道でベンチャー企業や中小・中堅企業による製品開発・融資・販路確保などを支援する方針を明らかにした。
朴大統領はこの日、「過去の経済体制に安住し、世界経済の挑戦と変化に適応できなければ韓国経済は失墜する」との認識を示し、「創造性を経済の核心的価値とする創造経済への転換が必須」と強調した。
朴大統領の言う「創造経済」とは、創造性を生かした起業などを通じ経済を活性化させるというのが概(おおむ)ねの意味と受け止められてきたが、具体的中身ははっきりしないままだった。そのため今回立ち上げたプロジェクトは、「創造経済」に関して朴政権が示した初の青写真といえる。うまくいけば地方経済が潤うという点では、安倍晋三政権が進める地方創生の韓国版と言えなくもない。
韓国は政府の手厚い優遇政策の恩恵を受けた財閥系企業が主要産業を独占し、長い間にわたって経済を支えてきたが、グローバル企業に成長したサムスン電子や現代自動車などは輸出主導路線を走り続け、国内への還元が少ないとの批判も出ていた。今回のプロジェクトで起業のほぼ全過程を支援することに大企業が応じたのは、こうしたことと無関係ではなさそうだ。
青瓦台(大統領府)などによれば、各大企業の縁故地は電子関連の工業団地が並ぶ亀尾とその隣接地の大邱にはサムスン電子、港湾があり流通と観光の中心である釜山にはロッテ、国際空港がある仁川には大韓航空の親会社である韓進などといった具合だ。これらの縁故地すべてに大邱同様の「創造経済革新センター」が設立される予定だ。
だが、大企業による縁故地での支援には批判も上がっている。日刊紙・韓国日報は「プロ野球のフランチャイズ制のように大企業に各地域を割り当てても、起業家が誕生し続けるかは疑問。大企業は自分たちの既存産業と関係する分野にのみ関心を示す可能性が高い」とするベンチャー企業関係者の話を紹介している。
まずは「インフラ」を整備し、「アイデア」はその後から解決するという発想はいかにも韓国的だが、事は創造性が要求される問題だけに簡単にはいきそうにない。
さらに出世のために上司の機嫌を取ったり、会社の利益よりも上司の利益を優先させようとする企業文化や創造性の芽を摘んでしまいかねない過剰な詰め込み受験教育に子供たちを追い立てる教育ママなどは、実は創造性を生かした経済活性化にとって大きなマイナス要因になる。「創造経済」を育む土壌作りにはまだ目が向けられていないのが現状だ。