金正恩第1書記、思想統制に躍起
北朝鮮で最近、住民が携帯電話やパソコンなどを通じて西側の文化や情報に触れたり、迷信が流行していることに対し、当局が取り締まりを強化していることが分かった。北朝鮮の体制維持に不可欠な思想統制に最高指導者・金正恩第1書記自らも躍起になっているようだ。(ソウル・上田勇実)
録音・録画を削除、アングラ演劇摘発
迷信は「アヘン」神経尖らす
韓国の脱北者団体「NK知識人連帯」がこのほど明らかにしたところによると、金第1書記は先月下旬、党中央、国家安全保衛部、保安中央検察所、最高裁判所、保衛司令部などの関係者を集め、「外部思潮(西側の思想)」の取り締まりを命じた。
金第1書記はその場で、一般の住民や工場従業員、学生らが利用している携帯電話、パソコンなどを全般的に検査し、国内流通が禁じられている出版物を焼却したり、録音・録画を削除すると同時に、利用者に対し教育と統制を施すよう指示したという。
金第1書記は昨年2月、携帯電話の取り締まりに関する最高司令官命令を下したことがあるが、「外部思潮」はその後も流入し続けていたとみられる。
また金第1書記は先月半ば、「外部思潮」流入を取り締まる「中央109連合指揮部」が提出したある“事件”の報告書を読み、事件に関わった人たちへの厳罰を命じたという。“事件”とは、国立演劇団が韓国KBSテレビのお笑い人気番組「ギャク・コンサート」をまねした創作劇「ケラケラ公演」を軍人や住民に観覧させ、体制を嘲弄したというものだ。
もともとこの「ケラケラ公演」は、2011年の新年音楽会で軍生活や住民の私生活の問題点をユーモアタッチで描き、平壌だけでなく地方でも巡回公演して人気を博した。だが、その後、人口減少や地下経済などを赤裸々に描いたアングラ演劇となり、作家や出演者は全員拘束されたという。
さらに同連帯によると、北朝鮮当局が最近再び許可した「画面伴奏音楽室(カラオケ)」で「南朝鮮(韓国)」の歌謡曲を歌った北東部の清津市に在住する20代の男性たちが保衛部などに通報されて大問題になったり、同じようにカラオケで韓国の歌を歌いながらビールを飲んで酔っ払い、暴れた中年女性が治安当局にしょっぴいて行かれたという。
金正日総書記は生前、資本主義に染まるとしてカラオケ運営を禁止したが、金第1書記はナンバー2の張成沢・党行政部長処刑後に民心が極度に悪化したため、今年に入りカラオケ運営を解禁していた。
北朝鮮内部向けの「群衆講演資料」には、北朝鮮で最近、迷信がはやり、当局がその取り締まりに追われている様子が浮き彫りになってもいる。
「全社会的に迷信行為をなくすための闘争を大いに展開していこう」と題する資料は「迷信はアヘンのようなもの」だとしながら、例えば「いまだにソン(日付によって方向を変えながらくっついて回り、人々のやることを邪魔する幽霊)がいるなどと言って、結婚式や引っ越しの日取りを決める人がいる 」などとしてこれを批判。「私たちの運命と未来を守り、切り開く指針でこの世の中で最も偉大なのは主体思想であり、私たちの生活を幸福の根本は党の政策だ」と諭している。
北朝鮮で認められている神的存在は、金日成・金正日・金正恩の3代独裁者のみ。宗教や迷信は容認されない社会だ。同連帯の金興光代表は「迷信は北朝鮮国内で驚くほど広がっており、当局にとっては深刻な脅威」と指摘した。






