北朝鮮の「正恩式暴走」は予測不可能?
核以上の脅威言及、黄海でまた砲撃
オバマ米大統領のアジア歴訪で日米韓3カ国による対北朝鮮包囲網の強化が確認されたが、その結果を見極めるように北朝鮮が武力挑発をまたエスカレートさせている。「核以上の脅威」をちらつかせ、黄海では約1カ月ぶりとなる砲撃を行った。血気盛んな“最高司令官同志”(最高指導者・金正恩第1書記)の暴走はとどまる所を知らない。(ソウル・上田勇実)
日米韓に対抗、軍では忠誠競争も
4回目の核実験の準備が完了したといわれる中、先週、オバマ大統領は日韓をはじめアジア諸国を訪問した。このうち朴槿恵大統領との首脳会談では「追加の挑発には追加の制裁を加える」と牽制(けんせい)し、半島有事の際の軍事指揮権である戦時作戦統制権を2015年に米韓連合軍司令部から韓国軍に移管する問題で、時期を再度延長させることで合意した。
これに対し北朝鮮は28日、「核実験以上の措置を取るのも否定しない」(国防委員会報道官)と脅し、29日には黄海の軍事境界線に当たる北方限界線(NLL)付近に砲撃を加えた。黄海での砲撃は先月末、「訓練」と称して海岸砲や長距離砲を計500発以上発射、このうち100発余りが韓国側海域に落下したばかりだ。
こうした北朝鮮の挑発的な言動について韓国の専門家は、多様な狙いが隠されているとの見方を示している。まず政治的には日韓米の包囲網には屈しないというメッセージを発する必要があり、当事者中の当事者である韓国に対しては北朝鮮を刺激し過ぎない方がいいとする融和世論を起こし、社会を分裂させるいわゆる“南南葛藤”を誘発させ、さらに軍事的にはNLLを無力化させようという計算が働いている…などだ。
だが、最も根本的な問題は北朝鮮の国家戦略にある。韓半島を赤化(共産化)し北朝鮮式で統一しようというものだ。金日成主席、金正日総書記、金正恩第1書記と3代続く「金氏王朝」が一貫して進め、一度たりとも諦めたり、見直したことがない路線である。核実験、長距離弾道ミサイル発射、無人機侵入、黄海での砲撃、サイバー攻撃などはすべて「赤化統一という最終目標に照準が当てられている」(韓国情報筋)と言っても過言ではない。
厄介なのは、「正恩式暴走」は挑発の度が過ぎたり、予測不可能な事態が起きたりしやすい点だ。スイス留学時代のクラスメートの証言や韓国情報当局の分析などから、金第1書記は「血気盛んで即興的」とされる。米国政府が最も恐れる点だ。
昨年末処刑された義理の叔父、張成沢・朝鮮労働党行政部長のように金第1書記の「暴走」に歯止めを掛けられる人物がいなくなり、理性的な判断を失う恐れもある。
もちろん、経験不足などからまだ政策的判断力が乏しい金第1書記には軍部が建議しなければならない立場にあり、その出方もカギを握る。張氏処刑後の恐怖政治で、一層火が付いた可能性がある忠誠心競争の結果、各部隊が「戦果」を上げようと対南武力挑発でしのぎを削るという面もありそうだ。
韓国では今月16日に南西部沖で起きた旅客船沈没事故で多数の犠牲者が出ており、「こんなに悲しみに暮れている時に北はなぜ挑発してくるのか」(ニュース専門テレビYTN)という声も上がっているが、北朝鮮は敵(韓国)の事情に合わせるほど“良心的”ではないことも、この際、ハッキリ認識すべきかもしれない。