朴大統領の「吸収統一」の本気度は

 韓国の朴槿恵大統領がこのところ韓半島統一実現へ固い決意をにじませている。訪問先のドイツで平和統一3大提案を発表したのに続き、これを具体化させる大統領直属機関が今月中にも発足する見通しだ。事実上の「吸収統一」宣言とも受け止められる朴大統領の発言の本気度が気になるところだ。(ソウル・上田勇実)

統一ドイツで北朝鮮圧迫

父の遺志?業績も意識か

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先月19日、青瓦台(大統領府)で外国報道機関のインタビューに応じる朴槿恵大統領= 青瓦台提供

 朴大統領は先月末、訪問先のドイツで演説し、「新しい韓半島を建設すべきだ」と語った。ベルリンの壁が崩壊したごとく韓半島でも「軍事的対決の壁、考え方や生活様式の差に横たわる社会文化的な壁、北朝鮮による核開発で国際社会との間にできた断絶と孤立の壁を全て崩さなければならない」とし、「韓半島の平和統一という夢を実現させるには今から一つ一つ準備しなければならない」と述べた。

 演説では、その具体的な準備として3大提案が示された。すなわち、①離散家族再会の定例化など人道問題の解決②農林業や交通・通信、地下資源開発などに向けたインフラ構築③住民間の同質性回復――だ。そしてこれらの提案事項を実行に移す大統領直属機関「統一準備委員会」を発足させるため、現在、人選の最終調整が行われているという。

 分断国家から統一国家を成し遂げた“先輩格”ドイツに乗り込んでの平和統一論は、北朝鮮をはじめ国際社会に統一への固い意志を印象付けるに十分な効果があったといえる。そしてそれは軍事境界線を北進して武力統一するという物騒な発想がないだけで、北朝鮮の体制や価値観に変化を求める事実上の韓国主導の「吸収統一」を宣言したにも等しいものだった。

 当然ながら、年初の「統一は大当たり」発言に始まった朴大統領の“統一行脚”に、北朝鮮がいい顔をするはずはなく、今回の平和統一論に対しても「われわれの尊厳高い思想と制度を傷つけるための反民族的体制統一」(1日付の党機関紙・労働新聞)と反発した。どれほど心証を害したのか朴大統領を「気難しいオールドミス」などとさげすむほどだ。

 朴大統領の一連の発言を諸手(もろて)を挙げて歓迎しているのが、現在500を超えるといわれる韓国政府登録の南北統一関連団体だ。大統領がこれほどリーダーシップを発揮して統一に意欲を見せたのは久方ぶりである。ある団体の関係者は「昨年末に北ナンバー2の張成沢氏が粛清され、体制が不安定になっているのもわれわれにとっては追い風になる」と言う。

 朴大統領の父、朴正熙元大統領は終生のライバルとされた北朝鮮の最高指導者・金日成主席との経済発展競争に勝ち、南北優位関係を逆転させ、韓国主導による南北統一の基礎を築くことに成功した結果、北朝鮮による武力統一の道を絶った。その意味で「吸収統一」は父の遺志を継ぐことにつながる。

 朴大統領は「経済民主化」や福祉を公約の目玉にして当選したが、もう一つ強調してきた課題が南北統一問題だ。任期2年目となり、そろそろ業績作りに見通しをつけておきたい時期である。持ち前の頑固さと原則主義貫徹で北朝鮮の譲歩を引き出した才覚は、閉鎖寸前で劇的に再開にこぎつけた開城工業団地問題で証明済みだ。

 韓国世論は経済的負担などを理由に南北統一にまだ否定的だが、統一ドイツの地に立った朴大統領の目には、突如崩れたベルリンの壁が韓半島にある諸々の「壁」とだぶって見えていたかもしれない。