韓国新野党、「脱理念」で大変身中?

 近年、「万年2位」に甘んじてきた韓国第1野党・民主党と無所属・安哲秀議員のグループによる新野党「新政治民主連合」をめぐり、左翼的理念と一線を画し、現実主義を重視する路線が浮かび上がってきた。従来の「左翼どっぷり」では選挙に勝てないという判断の下、6月の統一地方選を皮切りに2016年総選挙、17年大統領選で「戦える態勢」を整えようというもの。10年ぶりの非保守政権誕生が最終目標だ。(ソウル・上田勇実)

急進左翼の盧武鉉派と一線

現実主義の金大中派を尊重

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16日、ソウル市内で開かれた新野党「新政治民主連合」の発起人大会で共同結党準備委員長に選出された金ハンギル民主党代表(左)と安哲秀議員=韓国紙セゲイルボ提供

 民主党と安議員グループは16日、ソウル市内で結党発起人大会を開いた。この日発表された発起趣旨文を見ると「省察的な進歩と合理的な保守を併せて」「強固な安保に基づいた自由民主的基本秩序による平和統一」といった言葉が並んでいる。これまでの左派系野党では表明しづらい「中道右派政策受け入れ」だ。

 新野党は、朴槿恵大統領の父で野党陣営が長く軍事独裁政権の張本人として批判し続けてきた朴正熙元大統領の墓を参拝することも検討しているという。

 民主党が破格的とも言える路線転換を見せたのは、まずは金ハンギル代表(党首)をはじめ現在の執行部が中道派であることと、国民的人気のある中道寄りの安議員と手を組まずには、ただでさえ保守系与党に劣勢なのに、その上、非保守票の分散という憂き目にも遭うことが明白だったからだ。

 一方の安議員も、既存政党とは絶対一緒にならないと宣言していたが、民主党系の元老である元国会議員の助言で“豹変”、既存政党に飛び込む決意をしたという。

 この日の大会で、同連合の共同結党準備委員長に選出された安議員は「理念に埋没して現実と合理的真実を避けるなら国民の支持は得られない」と述べ、同じく共同委員長となった金代表も「左派が成長や安保を悩む時代を目指す」と語った。

 韓国メディアの分析では、同連合がこうした「脱理念宣言」で大変身を試みることで、今後、「親盧」と呼ばれる盧武鉉元大統領に近かったグループとは一線を画し、「東橋洞系」と呼ばれる金大中元大統領に近かったグループを尊重する可能性が高いという。

 「親盧」も「東橋洞系」も民主党で主流派を形成したことのある実力グループだが、前者が親北・親中・反米・反日などの路線を鮮明にさせた急進左翼の理念闘争型だった盧元大統領の支持者であるのに対し、後者は通貨危機(IMF危機)への迅速対応や日本大衆文化開放など、より現実主義の政策で手腕を発揮した金元大統領の信奉者たちだ。「理念より現実」を選択した新野党が盧武鉉派よりも金大中派に近づいたとしても無理はない。

 また安議員が民主党と手を組むことを決断した背景には、金元大統領の存在があるといわれる。1997年の大統領選で、理念的スタンスが保守的で金元大統領とは異なった金鍾泌・自由民主連合総裁と連立を組んで勝利した、いわゆるDJP連合(DJは金大中の略称、JPは金鍾泌の略称)に安議員が感化されたとされるほか、前述の安議員に対する助言をした元老が「東橋洞系」の座長格だったためだ。

 だが、新野党の大変身が順調に進むかは不透明だ。特に、現在は非主流派に甘んじているとはいえ、依然として発言力が強い「親盧」の反発は必至とみられており、実際、発起人大会に前回の民主党大統領候補で盧元大統領の片腕だった文在寅議員をはじめ何人かの「親盧」実力者の姿が見えなかった。

 まだ政治的・理念的な呉越同舟状態にある新野党の行方には、懐疑的な見方も付きまとっている。