北朝鮮崩壊視野?米中が統一協議へ

 「内憂外患」の金第1書記

 昨年12月にナンバー2の張成沢・朝鮮労働党行政部長が処刑されて以降、北朝鮮最高指導者・金正恩第1書記による統治が、表面的な様子とは異なり、極めて不安定だとする見方が韓国内で浮上している。こうした状況判断を裏付けるかのように米国は中国と韓半島の統一問題について話し合う意向を明らかにした。
(ソウル・上田勇実)

恐怖政治で側近の忠誠心変質

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軍の夜間訓練を抜き打ちで視察する北朝鮮の金正恩第1書記(中央)=1月20日、朝鮮中央通信(EPA=時事)

 「同志は自分の靴だけ残すとでも言うつもりか」

 これは張氏処刑後、米韓当局が盗聴などを通じて把握したという北朝鮮の党幹部同士の通話内容。「靴だけ残す」とは張氏が最後には靴しか残らなかったほど機関銃で跡形もなく殺されたことを指したもので、要は下手に逆らうと同じように処刑されてしまうから気を付けろ、という話だ。金第1書記による恐怖政治の一端を垣間見るエピソードだ。

 最近、張氏の親戚や側近らの粛清に関するニュースが後を絶たないが、関係者らは粛清は現在も進行中とみている。韓国情報機関・国家情報院傘下のシンクタンク、国家安保戦略研究所の劉性玉所長は韓国大手紙とのインタビューで「張氏の親戚・姻戚7000人余りが粛清されたという話がある」とし、「金正恩体制ははたから見ると安定しているが、極端な恐怖政治のために体制の自浄能力はほとんど麻痺(まひ)し、内傷がさらにひどくなっている」と指摘した。

 恐怖政治にさらされた党や軍の幹部らは、これまでにも増して極度の監視・密告の下に置かれている可能性が高い。最高司令官同志への忠誠心は、金正日総書記死後の後継を支えてくれた義理の叔父、張氏さえも処刑してしまう独裁者への恐怖心に変わり、それでも忠誠心が残っているとすれば、それは既得権維持を超え、自分の命を守るための「手段」に成り下がっているのは想像に難くない。

 また韓国国防研究院が国内に定着した脱北者で韓国入り後1年に満たない約100人を対象にこのほど実施した意識調査によると、「北朝鮮住民は自分たちの暮らしが金正恩時代になって金正日時代と比べどうなったと考えているか」という質問に「同じ」(39・2%)と「悪くなった」(28・9%)が7割近くに達するなど、「若き指導者」に寄せた期待が早くも失望に変わりつつある現実も浮き彫りになっている。

 こうした事態こそ金第1書記が見舞われている「内憂」だ。

 一方、北朝鮮に対する国際社会の目も厳しくなった。張氏処刑という出来事は北朝鮮の「異常さ」を改めて見せ付けただけでなく、周辺国が北体制動揺の可能性を真剣に議論し合う契機にもなっているようだ。

 米国務省によると、ケリー国務長官は今月予定しているアジア歴訪の際に「中国と南北統一問題について協議する」と明らかにし、統一問題はすでに「日本、韓国とも協議している」とも述べたという。

 米国の国務長官が韓半島の統一問題を最大の利害対立国である中国と話し合う意向を公式に表明したこと自体が「極めて異例なこと」(韓国政府関係者)と受け止められており、一部では米国が体制崩壊を視野に入れ始めたのではないかとの観測も出ている。

 米中が真剣に統一問題で知恵を出し始めるとすれば、そこには核開発の放棄あり、中国式改革・開放の導入あり…。金第1書記にとっては経済制裁よりも頭の痛い「外患」になる可能性がある。