運転士下村さん「これからも地域のため」


三陸鉄道がきょう全面復旧、3年ぶり「地域の足」に

運転士下村さん「これからも地域のため」

全線復旧を前に笑顔をみせる三陸鉄道南リアス線の運転士下村道博さん=3月26日、岩手県大船渡市

運転士下村さん「これからも地域のため」

三陸鉄道南リアス線が全線で運行を再開し、多くの人に見送られ釜石駅を出発する記念列車=5日午後、岩手県釜石市

 「お待たせしてしまった。ようやく走らせられる」。三陸鉄道南リアス線の運転士下村道博さん(40)は、全線再開を迎え安心した表情を浮かべる。交通手段が限られる地域の足として、これからも走り続けたいと願う。

 沿線の釜石市唐丹町出身。1984年4月の三鉄開業日、小学生だった下村さんは、就職で上京する兄と母親と唐丹駅から乗車し、母とはその後何度も乗った。入社は94年。「身近だった三鉄と見えないレールがつながっていたのかな」と笑う。

 唐丹駅の乗降客は顔なじみばかりだ。「痩せちゃだめだよ。頑張って」とコーヒーや菓子を差し入れてくれたおばあちゃん。出発ぎりぎりに駆け込んでくる高校生。「地域密着の三鉄らしい」

 2011年3月11日、大津波は唐丹の町を襲った。実家を出て市内のアパートで暮らしていた下村さんは地震の約10日後、変わり果てた町の姿を目にした。駅周辺の多くの家屋が消え、母校の小学校も壊れた。海抜16メートルの駅に車が乗り上げた光景を今でも思い出す。

 沿岸部の線路は寸断され、浸水した車両も廃車になった。「これから三鉄はどうなるのか」。北リアス線の一部区間では同月中に運転を再開し、下村さんも応援に入ったが、余震が続く中での運転は恐怖の連続だった。一方、南リアス線の運行はなかなか始まらず、乗客と触れ合う機会もなくなった。別会社の研修を命じられたこともあり、戻る場所があるのか不安が募った。

 盛-吉浜間が部分再開した13年4月、下村さんは久々に客を乗せて運転した。懐かしい走行音や汽笛。混み合う車内の乗客には笑顔があった。「列車を走らせお客を乗せることが三鉄の役割だ」と実感した。

 かつて運転席から見えた家並みはないが、名物の桜並木は間もなく開花を迎える。「元気なお客さんにまた会いたい。前よりいい町になってくれれば」。復興への願いを込め操縦レバーを握る。