台湾、日本産食品の解禁に向け議論が加速
TPP入りにらむ、豚肉禁輸案を否決した住民投票が追い風
2011年の東京電力福島第1原発事故後、福島を含む5県産食品の輸入禁止措置を続けている台湾で、解除に向けた議論が加速している。中国に先行して環太平洋連携協定(TPP)入りを目指す中、政府はTPPを主導する日本との貿易問題を早期に解決したい考え。「あとは蔡英文総統の決断一つ」(日本政府筋)とされ、早ければ今春までに解禁されるとの見方も出ている。
追い風となっているのが、肥育促進剤を使った米国産などの豚肉禁輸案を否決した先月18日の住民投票(国民投票)だ。最大野党・国民党が「食の安全より外交を優先すべきではない」と禁輸への支持を呼び掛けたのに対し、蔡総統は安全性を示す科学的なデータを駆使して否決に追い込んだ。地元メディアは、投票結果が「日本産食品の解禁を後押しする」などと報じ、関連記事を連日掲載している。
福島、茨城、栃木、群馬、千葉の5県産食品をめぐっては、国民党が放射能汚染のリスクがある「核食」と呼び、輸入解禁に反対するキャンペーンを展開。18年に住民投票に持ち込み、禁輸継続が決まった経緯がある。
与党・民進党の郭国文立法委員(国会議員)は先月の豚肉禁輸案の否決を受け、「社会の雰囲気は変わった。(日本産食品の解禁を)これ以上先延ばしする理由はない」と断言。焦点は解禁スケジュールに移っている。今年は統一地方選に向けた動きが春から本格化するため、早ければ1~3月中に実現するとの見方もある。
ただ、政府は解禁時期について明言を避けている。TPPへの参加を目指す蔡総統にとって、日本との食品問題の解決は喫緊の課題だ。それでも慎重な姿勢を崩さない理由について、外交筋は「1月は立法委員の補欠選挙などがあり、解禁に向けた手順を誤ると再び野党に攻撃材料を与えかねない」からだと解説する。
実際、5県産品の安全性に懸念を抱く消費者は今も一定数いるほか、「解禁したからといってTPPに入れる保証はない」との声も上がる。世論の動向次第では、解禁が棚上げになる恐れさえある。日本の外交当局者は「もはや台湾の内政問題。日本が強く求めて『圧力』と映れば、解禁は余計に遅くなる」として、事態を冷静に見守る構えだ。(台北時事)
台湾の日本産食品禁輸をめぐる動き
2011年 3月 東京電力福島第1原発事故。福島など5県産食品の輸入禁止
15年 5月 日本産食品の輸入規制強化(全食品に産地証明義務付けなど)
16年11月 蔡英文政権、福島を除く4県産食品の禁輸解除検討を公表
18年11月 住民投票で5県産食品の禁輸継続決定
20年11月 18年の住民投票結果の有効期限満了
21年12月 住民投票で米国産などの豚肉禁輸案否決
(台北時事)