損害29兆円、2021年も世界で自然災害相次ぐ
欧州で大洪水、米で竜巻、スペインの噴火は3カ月続く
豪雨、洪水、竜巻、噴火、地震。2021年も世界各地を自然災害が襲った。欧州では7月に大洪水が発生し、巨大な竜巻が今月、幾つも米国を襲った。スペインの火山は3カ月も噴火を続けた。
◇損害は29兆円
スイス再保険大手スイス・リーは21日、今年の全世界の自然災害に伴う損害額を約2500億ドル(約29兆円)と見積もった。前年比24%増えた。「冬は寒波、夏は熱波、洪水も集中豪雨も巨大ハリケーンもあった」と今年を振り返った。
保険の支払額1位と2位は共に米国の被災だ。8月末に米南部に上陸したハリケーン「アイダ」はニューヨークで洪水を引き起こし、300億~320億ドル(約3兆4000億~3兆7000億円)、2月に米南部を襲った記録的寒波もテキサス州で大停電が起きて150億ドル(約1兆7000億円)の保険金支払いを迫られた。
欧州では7月にドイツやベルギーを洪水が襲った。保険金支払いは総額130億ドル(約1兆5000億円)と推計される。
◇政治にも影響
欧州の洪水は9月のドイツ総選挙が近づく中で起きた。被害が大きかった西部ノルトライン・ウェストファーレン州のトップは「メルケル首相の後継者」として選挙を戦っていたラシェット州首相(当時)だったが、被災地で「談笑する姿」が報じられ、致命傷を受けた。逆に異常気象への意識の高まりは、環境政党「緑の党」に追い風となった。
敗北したキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の党首は年明けにラシェット氏からメルツ氏に交代する。対照的に、緑の党のベーアボック共同党首は8日発足のショルツ政権で外相となり、就任直後から英中部リバプールで先進7カ国(G7)外相会合に参加、笑顔を振りまいた。
米南部・中西部で10~11日に起きた竜巻被害でも、バイデン大統領が急いで現地入り。被害の大きかったケンタッキー州メイフィールドで「ためらわずに何でも頼んでほしい。赤い竜巻も青い竜巻もない」と国民に呼び掛けた。民主党(青)と共和党(赤)のシンボルカラーを持ち出し、政局の具にはさせない決意を示した。
背景には05年、ハリケーン「カトリーナ」の対応に失敗したブッシュ大統領(当時)が一気に支持を失った教訓がある。
◇火山ガス警戒
各地で火山の噴火も続いた。スペイン・カナリア諸島のラパルマ島で9月から3カ月間続いた火山の噴火は12月25日にようやく当局が「終わった」と宣言した。狭い島内で逃げる場所は限られる。有毒ガス流出の情報があるたびに「家の一番奥の部屋から出ないでほしい」と警報が出された。
4日のインドネシアのスメル山噴火では、40人以上が死亡した。5月に起きたアフリカのコンゴ(旧ザイール)東部ニーラゴンゴ山噴火でも30人以上が犠牲になった。日本では8月、小笠原諸島の海底火山「福徳岡ノ場(ふくとくおかのば)」が噴火、大量の軽石が各地に漂着した。噴火に伴う被害の形は広範で多様だ。
一方、カリブ海のハイチは8月、マグニチュード(M)7・2の地震に襲われ死者は2000人を超えた。ハイチでは7月に大統領が暗殺され、犯罪組織が外国人を誘拐しては身代金の要求を繰り返している。国際社会に支援の輪は広がっていない。(時事)