相次ぐ財務強化策、コロナ禍で苦境の旅行大手
JTBがビルを売却、接種進むも先行きへの懸念拭えず
新型コロナウイルス感染の長期化で苦境が続く旅行大手では、資産売却による手元資金の確保や資本増強など財務基盤の強化策が相次いでいる。最大手のJTB(東京)は本社ビルなどを売却し、得た資金を需要回復を見据えた成長投資にも充てる考えだ。政府がワクチン接種を条件に行動制限を緩和していく方針を決めたが、業界では感染の再拡大など先行きへの懸念がなお拭えない。
JTBは所有する東京都品川区の本社ビルと大阪市のビルを売却。売却額は数百億円とみられる。エイチ・アイ・エス(HIS)も今月、東京都港区の本社オフィスを売り、賃貸に切り替えた。
旅行大手は人員や店舗の削減といったリストラ策も迫られた。JTBは今年度末までにグループの人員を2019年度比で約7200人削減し、店舗数も減らす計画。近畿日本ツーリストを傘下に持つKNT-CTホールディングスは今年度末までに、近ツーの個人向け店舗の3分の2を閉める。日本旅行(東京)も22年末までに店舗数を半減させる。
コロナ禍のさらなる長期化に備え、JTBは今月末、取引銀行を引受先とする優先株発行で300億円を調達する予定。HISも日本政策投資銀行の支援による資本増強を検討。KNTは親会社の近鉄グループホールディングスなどから400億円の支援を受け、6月末時点で債務超過を解消した。
各社は財務基盤を強化しながら、需要回復期への布石も打とうと、調達資金を成長投資にも充当する考え。ワクチン接種が進んでいるものの、「今後もコロナ感染が再拡大する恐れがあり、100%喜べる状況ではない」(大手幹部)のが実情だ。