中国が「核の戦狼外交」へ舵?
《 記 者 の 視 点 》
ICBM用サイロの建設隠さず、飛翔体発射実験に成功か
中国の核戦力の脅威が高まっている。
米国防総省は3日、中国の軍事動向に関する年次報告書を発表し、6年後の2027年までに700発の核弾頭保有の可能性の言及した上で、30年までに少なくとも1000発の核弾頭を保有する意向を持っている公算が大きいと強調した。
なお米紙ニューヨーク・タイムズは7月、中国が新疆ウイグル自治区に核ミサイルの地下格納庫とみられるサイロ110カ所を建設していると報じた。6月にも北西部甘粛省の砂漠地帯で同様のサイロ119カ所が建設されていると報じられたばかりだった。
軍拡路線を突き進む中国の最新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)は、ミサイル1基に10発の核弾頭を持つ。
単純に新疆、甘粛省で発見されたサイロ数229基に10を掛けて核弾頭数を割り出すと、3290発となる。
令和3年版防衛白書は、ロシアの核弾頭約4300発、米国約3800発に対し、中国は約320発と英仏両国をわずかに上回る程度としているが、米露に対峙(たいじ)できる核戦力の大規模増強に動きだしたことになる。
しかも中国は、飛行中の極超音速兵器から飛翔体発射実験に成功した可能性がある。
英紙フィナンシャル・タイムズは今月21日、中国が今夏に行った極超音速兵器の実験で、同兵器の大気圏飛行中における飛翔(ひしょう)体発射を報じた。事実であれば、中国が極超音速兵器開発において、米国を含む他国が開発し切れていない高度な軍事技術を所持したことになり、核の傘が破られつつある懸念が残る。
米国防総省年次報告では、空中発射弾道ミサイル(ALBM)などからなる中国版「核の3本柱」を構築した可能性に言及している。西側諸国は迎撃困難な極超音速兵器から発射された核ミサイルを想定する必要に迫られている。
なお、核専門家らによると、新疆や甘粛省で発見された核弾頭を搭載した弾道ミサイル用とみられる新たなサイロは今春、建設が始まり、それぞれ約3キロ程度の距離を取っているとされる。ただ、隠蔽(いんぺい)努力を放棄したかのように、極秘裏での建設に動いた様子はない。明らかに発見されることを見越していたと考えると、中国が新サイロにミサイルを実装するかどうかは不明。おとり用偽装サイロもしくは、将来の核軍縮交渉カードといった可能性も指摘される。
いずれにしても、中国初の核実験に成功する前年の1963年、当時の陳毅外交部長(外相)が「中国人はたとえズボンをはかなくても、核兵器をつくってみせる」と断言してから約60年がたつのを前に、中国は核大国の頂へ駆け上がろうとしている。
その頂を確信した時点で中国は、従来の核兵器先制不使用を撤回すると多くの軍事専門家は見ている。この日こそは、これまでのバナナやパイナップルの輸入を止めたり、激しい言葉による戦狼(せんろう)外交から、国家のドスを抜いた「核の戦狼外交」へと豹変する日だ。
その兆候は既にある。陝西省宝鶏市の中国共産党委員会は、日本が台湾問題に首を突っ込むなら「核攻撃しろ」という衝撃動画をネット上で再公開した。
編集委員 池永 達夫