杉山文野氏のJOC理事への就任に疑問

《 記 者 の 視 点 》

倫理問題あり、体は女性で心は男性のトランスジェンダー

公益財団法人 日本オリンピック委員会Webサイトより

公益財団法人 日本オリンピック委員会Webサイトより

 東京五輪の開幕を1カ月後に控えた今年6月25日、体は女性で、心は男性のトランスジェンダーである杉山文野氏(40)が日本オリンピック委員会(JOC)の理事に就任した。同氏は元フェンシング女子日本代表だ。

 LGBT(性的少数者)運動を後押しするメディアは、JOCが当初、「男性」と自認する杉山氏を本人への確認不足から「女性枠」と発表、のちに訂正したことを大きく報道した。しかし、筆者は性別をどうするかという問題よりも、同氏の新理事就任そのものに違和感を持った。

 戸籍上、女性の杉山氏には女性のパートナーがいる。当然、結婚できない。しかし、パートナーは一児を出産している。友人のLGBT活動家(ゲイ=男性同性愛者)から精子提供を受け、体外受精で妊娠出産したのだった。

 生まれた子供にとっては、3人は生みの母親(パートナー)、生物学上の父親(友人)、そして杉山氏は養父(養母?)という複雑な関係になる。子育てには3人が関わっているというから、子供のアイデンティティー形成に混乱が生じないか、懸念されるが、NHKテレビは昨年8月、この3人の子育てを「カラフルファミリー」と名付け、新しい家族の形として紹介した(本紙「メディアウォッチ」昨年9月7日付既報)。

 筆者は最近、杉山氏の著書『元女子高生、パパになる』を読んだ。同氏に関する前述の事実を知っていたので、パートナーの具体的な妊娠方法を確認したかったからだ。NHKでは、提供された精子を「針のない注射器」でパートナーの体内に入れて(シリンジ法と呼ぶらしい)妊娠を試みたことを告白していた。

 杉山氏は著書で「まだLGBTQの妊活に理解のないクリニックが大半の中、この方法であれば病院に行かずにできるのでトライしやすい」と述べている。筆者が同氏らの行動に違和感を覚えるのは、この言葉に表れているように、命の尊厳についての感性を欠き、自分たちで「命をつくってもいい」と思っているように受け取れるからだ。

 結局、シリンジ法は失敗、友人から紹介された不妊治療専門クリニックで、体外受精の一つである顕微授精を行ったという。わが国には、第三者から精子提供を受けた体外受精を禁じる法律はない。しかし、日本産科婦人科学会(日産婦)は「わが国における倫理的・法的・社会的基盤に十分配慮」した上で、子供を希望する「夫婦」に行うとしている。つまり、精子提供による体外受精は、結婚していない女性に行うことは学会の会告違反になる。

 ところが、前書によると、クリニックには杉山氏のパートナーとゲイの男性だけが行ったが、2人の関係は確認されず、簡単に顕微授精を行ってもらえて妊娠することができたという。パートナーの妊娠出産には、学会の会告を無視する不妊治療の商業主義という倫理違反も潜んでいる。

 日産婦が夫婦以外への体外受精を禁じるのはなぜか。「社会一般の倫理的感情」(最高裁)つまり公序良俗に反するからではないか。シリンジ法も同じ問題を抱える。不妊治療専門クリニックを利用し、「命をつくった」杉山氏の倫理感覚はJOC理事という公益性の高い地位にふさわしいとはとても思えないのである。

 社会部長 森田 清策