習近平VS王岐山 無二の親友が政敵に?

《 記 者 の 視 点 》

 中国共産党は今月2日、王岐山国家副主席の側近だった董宏・前組長(66)を「重大な党規違反」の疑いで摘発した。標的は王副主席とされる。

 無二の親友とされた習近平国家主席と王副主席の間に、なぜ修復不能な亀裂が生じたのか。

 習近平氏は、ポスト引き上げという飴(あめ)と汚職摘発という鞭(むち)での政治的求心力を増幅させてきた。

 今回、摘発された董氏は一方の鞭を振るう実務を担った王副主席の側近だった。同氏は、党中央規律検査委員会のトップを務めた王副主席の下で、党中央巡視組の責任者として、幹部の汚職行為を摘発してきた。董氏は王副主席の地方視察時、常に同行していた。

 また先月下旬には、王副主席が擁護してきた実業家の任志強氏が、有罪判決を受け懲役18年と420万元(約6762万円)の罰金刑を言い渡された。

 任泉生商業部副部長の息子の任氏は、王副主席の中学同級生で10代からの親友だ。任氏は後年、北京の不動産王として名を馳(は)せ、ニックネームは「北京のトランプ」だ。

 「北京のトランプ」と呼ばれたのは、不動産で財を成すと同時に、歯に衣着せぬ率直な発言が、たびたび物議を醸したからだった。

 言論統制下の中国にあって自由闊達(かったつ)な発言は人気を博し、ミニブログ(微博)のフォロアーは3700万人を記録するほどだった。

 任氏は名指しこそ避けたが、習主席を「権力を渇望するピエロ」と暗に批判、文化大革命時代の「四人組」に見立てることもあった。そこまでの発言ができるのは、単に勇気があるだけでは無理で、後ろ盾となる政治的権力を持ったパトロンがいなければ不可能だった。その中南海のパトロンが王副主席だったとされる。

 なお中国当局が董氏を摘発し、任氏に有罪判決を下した真の狙いは王岐山氏にあると専門家筋では読む。

 「将を射んと欲すれば先(ま)ず馬を射よ」(杜甫の詩『前出塞九首』)との言葉通り、まず周辺から片付け外堀を埋めていくのが目的達成への早道であり、本丸は王副主席にあるというのだ。

 しかし、そもそも習主席と王副主席は、文革の下放時代から無二の親友だったはずだ。

 さらに習主席が権力を掌握するために汗をかいたのは王副主席だった。

 その権力のトップに君臨する二人に、なぜ亀裂が生じたのか。

 視野が広く有能な王副主席は、輸出志向の外需依存経済から内需依存経済に転換するだけでなく、徹底した毛沢東路線を驀進(ばくしん)し社会主義化を図る習近平国家主席に危うさを感じているもようだ。だからこそ、親友の唇を借りて警告を発していたのかもしれない。

 しかし、国家主席の任期を撤廃させ、核心という絶対的権力を手に入れた習近平氏は、自分に向けられた批判にじっくり耳を傾ける精神的余裕はなく、強権で潰(つぶ)す意向とも読み取れる。

 一方で、政権主流派を担う両者にくさびを打ち込み分裂を図る中南海の政権闘争の一環との見立てもある。

 編集委員 池永 達夫