「押し付けられた」憲法 通常国会を改正への転機に
《 記 者 の 視 点 》
令和2年を迎え、来週から通常国会が開幕する。予算案や法案の審議、野党による汚職事件の追及などと共に注目されるのが、安倍晋三首相の解散戦略と、衆参両院憲法審査会での論議の進み具合だ。来年9月に党総裁任期、同10月に衆院議員任期の満了を控え、首相が意欲を燃やす「自身の手で」の改憲に向け今年が正念場となるためだ。
「日本人は自分の体に合わせた服を作るのは下手だが、押し付けられた服に体を合わせるのは上手だ」
ジャーナリストの田原総一朗氏が憲法問題と関連しよく言及する宮澤喜一元首相の言葉だ。改憲派に言わせると「子供の頃の服を大人になってそのまま着ているのと同じだから、憲法改正が必要だ」となるが、「それなりに体の方を合わせてうまくやってきたんだよ」と軽くいなして話を逸らす。知性的な護憲派、宮澤氏の面目躍如たる発言だ。
憲法を服に例えるのは日本だけではない。米独立宣言起草者で第3代大統領、トーマス・ジェファソンはこんな言葉を残している。
「私は法律や憲法を頻繁に変更することを主張しているのではないが、法律や制度は人間の精神の進歩と歩調を合わせなければならない。…文明化された社会に野蛮な先祖たちの制度の下にずっと留まらせるのは、人に少年の頃のコートをずっと着るよう要求するのと同じようなものだ」
米国通の宮澤氏はこのジェファソンの言葉を念頭において、件(くだん)の言葉を語ったのかもしれない。
ともあれ、今の憲法が「押し付けられた服」だとの認識は占領期を知る政治家にはほぼ共通している。昭和22(1947)年4月の総選挙で当選した田中角栄元首相も「ともかく占領軍は、わが国を弱体化し細分化し、非戦力化するために現行憲法や多くの法律をつくって、日本政府に呑ませたんだ」と語っている。
同氏秘書だった早坂茂三氏がその肉声を整理した『田中角栄回想録』によると、田中氏は「主権を拘束する力の存在する時につくられた憲法は無効である、と。代議士になったころから先輩に教えられてきた」とも述べ、現行憲法は「時代の変遷に応じて変えなくてはいけない」と言明する。ただ、「政治は国民のコンセンサスを得て(問題に)メスを入れなければならない」ので、改正は時期尚早との立場だったというのだ。
同書で特に興味深いのが、占領下の国会の様子を語った部分だ。
「そのころは占領軍から毎日のように『メモランダム』が発せられていた。まァ、日本の国会に対する事実上の指示だな。そのメモランダムでは法律の原文が示され、一行の修正でも、付帯条件を付けることでも、占領軍のOKがなければできなかったんだ」
連合国軍総司令部(GHQ)民生局のケーディス大佐が終日、議長サロンで法案成立を指揮していたのだという。昭和27年の独立以来、70年近く国会議員は自由を謳歌(おうか)してきたが、占領期の憲法はそのまま残る。通常国会が改憲に向けた歴史的な転機となるよう、議員諸氏の奮起を願う。
政治部長 武田 滋樹