離島防衛と自衛隊、迅速な対応体制の整備急げ 拓殖大学客員教授 濱口和久氏
本紙のコラム「防衛レーダー」の執筆者である濱口和久拓殖大学客員教授は17日、世日クラブ(会長=近藤讓良・近藤プランニングス代表取締役)の第154回定期講演会で、「離島防衛と自衛隊」をテーマに講演した。以下はその要旨。
増強目覚ましい中国海軍/南西諸島にヘリ空母、原潜を
海保巡視船の火器は貧弱/第15旅団を師団規模に
日本の国境は全部、海だ。南北約3700㌔、東西約3100㌔、海岸線の総延長は約3万5000㌔ある。そして約6800の島があるが、そのうち6400が無人島だ。そして都市部、太平洋側に産業・人口が集中する一方、地方では過疎が進行。また原発、重要施設が海岸線付近に多数ある。日本海側は脅威に脆弱(ぜいじゃく)だ。
国境線に多くの領土問題を抱えているが、その中でも特に、九州以南は戦略的空白を形成している。九州以南というのは本州の大きさと同じ、約1400平方㌔ぐらい広がりがある。日本は大陸から見た場合、宗谷海峡、津軽海峡、南西諸島など、太平洋に進出するための重要な航路をもっている。中曽根元首相は日本列島は不沈空母だと言ったが、日本には84カ所も在日米軍の基地・施設があって、大陸から見ると太平洋の防波堤になっている。
そういう中にあって北東アジアにおける沖縄の位置を見ると、那覇を中心としてウラジオストク(1916㌔)、グアム(2166㌔)、ハノイ(2333㌔)ぐらいの距離まで十分に作戦展開できる。沖縄本島の地政学的な重要性がここにある。
きょうのテーマである離島、その中でも尖閣の防衛だが、中国がもし尖閣を奪取する場合に想定されるシナリオは、まずは漁民を装った形で海上民兵等々が上陸することだ。そういう海上民兵を退去、あるいは捕まえる上では、まず長崎県佐世保市にある陸上自衛隊の西部方面普通科連隊等々が現地に急行する。そして同じ佐世保にある海上自衛隊の艦船がそこに向かい、それから那覇にある航空自衛隊から飛び立つというような流れが本来の姿だ。しかし現状は、一次的には海上保安庁が対応することになっているので、かなりの時間的ロスが発生する。
尖閣に一番近い石垣島には第11管区海上保安部があるが、メーンの巡視船3隻「いしがき」、「はてるま」、「よなくに」に積んでいる火器は30㍉機関砲1門と放水機のみだ。もし中国側がすごい火器を持っていた場合は対応できない。
それから、那覇空港は民間機と自衛隊機の共用の空港だ。私が中国の軍人で尖閣奪取を考えたとすれば、一つの方法として、那覇空港の滑走路のど真ん中に中国民間機をエンジントラブルとか何とか口実をつけて止めれば航空自衛隊のF15は発進できない。そんなことも中国は実際に考えていると思う。
中国が尖閣をどういう形であれ不法占拠した場合、海上保安庁が一義的に対応することも大事かもしれないが、やはり自衛隊も迅速に対応できる体制を早急に整備する必要がある。そのために今、防衛省・自衛隊は沖縄本島を含めた南西諸島への自衛隊の増強・整備をやっている。
現在、沖縄を含めた南西諸島の防衛はどういう体制かというと、航空自衛隊は南西航空混成団隷下の第83航空隊があるが現在F15戦闘機15機の1個飛行隊しかない。
海上自衛隊は対潜哨戒機P3Cを擁する第5航空群第5航空隊が東シナ海ににらみを利かせているが、最近増強目覚ましい中国海軍に対抗できる護衛艦は沖縄には1隻もない。機雷処分を任務とする小さな哨戒艦3隻が沖縄本島に配備されているだけだ。
陸上自衛隊は第15旅団がわずか約2000人。戦車や榴弾(りゅうだん)砲、地対艦ミサイルなどの実戦的な兵器は置いていない。上陸してきた敵の地上部隊と相見(あいまみ)える第51普通科連隊も沖縄本島に約700人いるだけで、その他の南西諸島の島々には配備されていない。
宮古島や久米島にはレーダーサイトがあるが、これは敵航空機の警戒・監視が任務なので、敵上陸部隊と地上戦闘はできない。ここにもし中国の人民解放軍が不法上陸をしてきた場合はほとんど手も足も出ない。一番台湾に近い与那国島にやっと陸上自衛隊100人規模の沿岸監視隊を配備するため今、工事に入っている。これまでここを守っていたのは沖縄県警の駐在所員が持つ拳銃2丁だけ。こういうお寒い、恐ろしい状態が続いていた。
では離島を守るためにどんなふうに配備していけばいいのか。やはり、那覇にある第15旅団を師団規模(約6000人)にまで増強する必要がある。下地島空港への自衛隊機の配備。それから石垣島に普通科連隊を中心とした陸上自衛隊の部隊を展開する。大型船舶が接岸できる石垣港の埠頭に海上自衛隊の艦船を待機させ、大型輸送機が離発着できる2000㍍級の滑走路を持つ新石垣空港には、石垣島に人員を運ぶためのCH47大型輸送ヘリコプターを含めた航空部隊を配備する。場合によっては、アメリカのオスプレイも配備するぐらいの体制が、中国に対する抑止を考えれば当然の対処だと思う。
日本は先の大戦に負けるまでは、特に大東亜戦争緒戦の頃は、世界でも有数な空母機動部隊を持っていた。現在、航空母艦を持っている国は、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、イタリア、スペイン、インド、ブラジル、タイ、中国の10カ国だ。日本もはっきりとは言わないが、護衛艦と称するヘリ空母「ひゅうが」(全長195㍍)を持っており、今、新しいヘリ空母「いずも」型を造っている。それは基本排水量が1万9500㌧、全長が248㍍。戦艦大和の全長は253㍍なので、この「いずも」型のヘリ空母は相当大きい。日本が「いずも」型のヘリ空母にオスプレイ等を搭載して東シナ海に展開するようになれば中国にとって相当な脅威となり、今のように傍若無人な活動はしないだろう。
最後に、日本も原子力潜水艦を持つべきだと思う。現在、海上自衛隊は16隻の潜水艦を運用している。これらはすべて通常型潜水艦なので、時々浮上して空気を入れなければならない。原子力潜水艦は、極端なことを言えば1年間でも海に潜ったまま航行できる。もし、日本が原子力潜水艦を保有し、海中に潜っているようになれば、中国も南西諸島でそう簡単に動けなくなる。
現在、海上自衛隊が保有する通常型潜水艦の建造費は約600億円。アメリカの原子力潜水艦は約1800億円。約3倍の建造費がかかるが、長い目で見れば十分元は取れるし、中国に脅威を与えることができる。もっと言えば、日本の造船技術、潜水艦の建造技術と原子力の技術を結集すれば十分に純国産で原子力潜水艦を造れる、そういう時代に来ている。
日本には海兵隊がないがアメリカにはある。私は日本版の海兵隊があってもいいと思う。部隊としては、西部方面普通科連隊が最有力候補だ。それ以外では特殊作戦群や中央即応集団だろう。こういう部隊をうまくミックスして日本版の海兵隊をつくって離島防衛にあたっていく必要がある。
離島防衛を考えると、自衛隊だけでは絶対に守れない。自衛隊と一緒に国民も領土を守るという意識をもつような空気に変えていかなければ、日本という国がなくなっていく。きょうのテーマのように、離島防衛と自衛隊ということを一人ひとりの国民が考えるようになってくれれば、この国は未来永劫(えいごう)に続いていくようになるだろう。






