震災は漁業新生のチャンス 政策研究大学院大学教授小松正之氏
個別割当導入で資源回復を
講演要旨
東日本大震災によって沿岸漁業は壊滅的な打撃を被った。宮城県では復興特区法に基づく復興推進計画を進めているが、漁業者らの反発が強い。小松正之教授は、仙台市で開催された海花東日本復興の会設立1周年講演会で「復興には個別割当の導入と漁業権の改革が必須」と語った。その講演要旨を紹介する。
(市原幸彦)
科学的な資源管理を/民間企業との連携が必要
日本の今の水産物は、ノルウェーやアイスランド、アラスカ、チリなどからどんどん入っている。スーパーに並んでいるのを見て、魚は何の問題もないと思っている人が多い。日本の漁業の衰退に消費者が無関心なのは、一つは、役所、科学者、関係業界がきちんと情報を出してないからだ。
今、アベノミクスで円安になっている。多分買えなくなってくるだろう。しかし日本の近海にはたくさんはない。三陸が世界の三大漁場の一つだ、という話も今は昔だ。しかし昔そうだったということは、戻していけば復活できるということだ。海に力はある。乱獲を防止し、資源を回転させ、利子分を採っていれば戻る。
日本の漁業法は戦後、GHQ(連合国軍総司令部)が作っていった法律をそのまま踏襲している。それも当時のアメリカとソ連の妥協の産物だ。漁協とソ連は、漁業権の管理を組合でと主張し、それが通った。
科学的な管理もまったくできてない。水産資源の保存と管理に関する諸外国の事例を調査して、増加に向けた政策の目標を立てるべきだ。例えば5年後にするとか、困難なことではない。
わが国の魚介類の自給率は昭和39年度の113%をピークに下がってきた。肉についに追い越されてしまった。現在は60%ほど。今後ますます国内も減り、輸入も減るから、国内の生産量で賄う必要がある。
世界の各国の生産量が増えているにもかかわらず、日本はピークで年1280万トンから右肩下がりで減り続け、去年は400万トン強だ。韓国は国土が狭いにもかかわらず日本を凌駕する勢いだ。
世界の漁業生産の1億5000万トンのうち半分は養殖で、その半分以上は中国によって占められている。1人当たりの消費量も伸び、中国が年間31キロ食べている。人口は10倍であり、日本が買い負けすることは明らかだ。
エサの問題もある。最近ノルウェーなどでは、半分以上は植物性のたんぱくを供給している。将来、大豆やトウモロコシの争奪戦が起こるだろう。
東北も1980年代後半には360万トンあったが、2009年で60万トンに減った。今は40万トンくらいだろう。震災前から減っていたのであって、震災前と同じくらいの復旧を目指していたのではだめだ。
加工場に持って行くシステムも構築していかなければならない。ノルウェーとか、マルハ、ニッスイが中国に投資したのを参考にすべきだろう。
漁獲量の科学的な数値設定を行うべきだ。日本は魚種が多くて資源管理ができないという人たちがいる。しかしアメリカは約500種、ニュージーランドでは約630種。ノルウェーは資源評価しているのが100種くらいあり、個別割当しているのが25種ある。築地に入るのは400種くらいだ。できないはずがない。抵抗ばかりしている。TAC(漁獲可能量)設定の魚種が7種類しかない。しかも日本の場合、個別割当がゼロであるため効果がない。
諸外国で行っているIQ(個別割当)やITQ(譲渡性を持つ個別割当)制度を導入すべきだ。全体の獲り分が決まったら、それに対するシェアとして与えられる。漁業経営を安定化させると同時に水産資源を回復させる唯一の方法は、この導入以外にない。
IQ制度を導入すると取り締まり経費が掛かり過ぎるという話がある。水産庁は、3人の検査官を全国の597港に配置すれば、日本沿岸の漁業生産額5000億円のうち8%の436億円の取り締まり経費が掛かるという。
しかし日本の港の水揚げをみると、だいたい上位10港で全体の8割から9割の水揚げがある。そこを押さえ、イカ釣り船などチェックしなくていい。巻き網船でいい。するとたった30億円しか掛からない。
アイスランドの漁船協会ではIQ制度を導入し、科学者、弁護士、経済学者、倫理学者などいろんな人がいて、いろんな知恵を出し、科学的資源管理を行って、右肩上がりに生産を上げている。日本だと水産庁のOBばかり。同じ思考パターンしかない。
とはいえ、日本でも新たな動きが始まっている。私は新潟県のIQとITQの導入委員長もしている。佐渡で甘エビのIQのモデル事業をやっている。役人や漁業者の抵抗が大きかったが、知事のリーダーシップと、私が外国から学んだものとでうまく回ってきた。
新潟の場合は少ないクオータ(割り当て分)にしていって、経営支援しながら将来増やしていくというやり方だ。クオータが決まったので失業がない。エビも盆や正月に高く売れるようになったと喜んでいる。
今、宮城県は、養殖漁業に民間企業の参入を促す水産特区を石巻市の桃浦でやっている。漁業権を持つ県漁協の反対が強い。利益優先の企業が参入すると漁業が廃れる恐れがあると。しかし、震災は水産業復興のチャンスだ。
漁業権は、漁協に所属した人ならば、誰でも獲っていいという考え方だ。しかし海は基本的にはみんなのものだ。平成19年度施行の海洋基本法では、国民共有の財産と言っている。諸外国でも、海洋資源はみんなのものということになっている。しかし日本の漁業法にはそれがない。
魚がいなくなって困るのは漁業者だが、それだけで済まない。資源を管理するというのは漁業者ばかりでなくて、地域の住民も総掛かりで行うべきで、国もきちんとしたビジョンをつくらなければならない。
全てのことを透明に、情報を出しながら行う必要がある。消費者としても口を出していく。本当に魚が食べられなくなった時に、悪いのは漁業者だったと言っても済まないことになる。
漁業権の改革が必要だ。漁業の衰退は農業より激しい。沿岸を活性化するには、新規参入の促進が最も有効な策と言っても過言ではない。意欲のある者の参入を阻害している漁業権漁業における優先順位の撤廃だ。
今、空き漁場ができ、後継者も岩手で2割、宮城でも3分の1しかいない。漁業権は漁民だけが継承するということをいつまでも放置していたのでは、沿岸漁業地域は廃れてしまう。ノルウェーとかチリは企業が営んでいる。だから向こうの方が安い。ものもいい。どこかで企業との連携が必要だ。
漁協の経営状況は20年ほど前から事業利益はマイナスだ。事業外利益で何とか経営利益がプラスになっている。やはり本業をプラスにする必要がある。そのためには、資源回復を図る。その最善の方策として個別割り当てを入れて努めることだ。