子宮頸がんワクチン接種問題 積極的勧奨中止に追い込んだ地方議会
厚生労働省のワクチン検討部会が先月半ば、子宮頸がんワクチン接種の積極的勧奨を中止するという判断を下した。政府が積極的勧奨中止を決めた背景には、地方議会でワクチン接種の中止を求める陳情・請願書、議員による意見書採決など活発な働きかけがあったことは否めない。その一連の動きや結果をまとめた。
(山本 彰)
効果疑問視する多数の質問
「自分の思い代弁」と請願者
地方議会は6月議会で、このワクチン接種による副反応問題が相次いで取り上げられた。真っ先に代表質問でこの問題が扱われたのは、東京・杉並区議会だった。
杉並区では、同ワクチンの重篤な副反応が一昨年10月、区内に住む女子中学生に発生。翌年の6月議会の質疑で曽根文子区議(生活ネット)が子宮頸がんワクチン被害者の存在について問うた際、区側は重篤な被害は出ていない、と回答していた。
重篤な被害に娘が今も苦しんでいる松藤美香さん(46)。「接種後、すぐに娘が歩行困難になり、翌日には入院する事態になった。医療機関を通じてその情報が保健所に届けられ、保健所長や健康推進課長、同課長代理の3人が見舞いに自宅まで訪ねてきた」
松藤さんは、それにもかかわらず、重篤副反応が出ていないという答弁をしていることを聞き、区議会の議事録にもあたりその事実を確認して驚いた。
公明党区議が熱心に松藤さんとコンタクト。穏便に抑えようとしたのに松藤さんが反発すると、「大騒ぎになりますよ」と述べたという。
曽根区議が3月議会で再質問し、副反応被害が新聞で大々的に報じられ、3月25日には「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」が発足。松藤さんは実名を出してその会長になった、という経緯がある。
4人の区議が、5月30日から2日間、子宮頸がんワクチン接種の副反応情報の周知徹底などを要望。区側は「十分に理解した方にだけ接種を受けてもらう」(保健所長)と答弁したが、区民から出された「国にワクチン接種の中止を求める意見書作成を要望する陳情書」は議論されなかった。
地方議会の流れを大きく変えたのが神奈川県大和市。6月6日、厚生常任委員会で、大和市が国に子宮頸がんワクチン接種事業の一時中止を求める意見書を出すよう要望する「請願書」を議論。
保守系会派の井上貢市議は、同ワクチンが子宮頸がんの予防効果より重篤副反応の出現率の方が4倍高いとのデータを紹介し、「リスクが高いのに接種との因果関係は十分に説明されていない。こんな状況では自分の子供にも大和市の子供たちにも勧められない」と表明。請願書は5対1で同委員会で採択された。
請願書を提出した同市の高津達美氏は「接種対象の娘を持つ親として、とても心配だった。議員は本当に真剣に自分の意見を代弁してくれた」と述べていた。
これで神奈川県下の綾瀬市、座間市、海老名市などで同様な意見書作成の動きに弾みがついた。また、一般質問でも茅ケ崎(10日)や東京・小金井市や町田市の市議会(11日)で、市議が副反応に苦しむ女生徒の切々たる手紙を読み、ワクチンの予防効果への疑問を指摘し接種の一時中止などを要望。
これに対して、石阪丈一町田市長も「被害者が救済されないままで、予防接種制度を信頼せよというのは難しい」と指摘。12日には埼玉県嵐山町議会が、国に子宮頸がんワクチン接種の一時中止を求める意見書を可決した最初の議会となった。
こうした流れを受け14日、厚労省ワクチン副反応検討部会が積極的勧奨中止を決め、判断を地方自治体に預けた形となった。
鎌倉市では、同様の意見書に賛成と見られた自民党市議が退席し、残った1人の自民党市議が反対に回り否決されるという、被害者より党利党略に基づく表決もあった。
大和市議会は、国に接種の一時中止と早急な被害調査開始を求める意見書を作成し、26日本会議で公明党や共産党の反対を押し切り大差で可決。
同時に、子宮頸がんの原因が「若い時に不特定多数との性交渉」とされている、とし、学校教育の中で性道徳を推進することを求める「請願書」も表決されたが、趣旨が十分伝わらず、否決された。
東京23区でも、国にワクチン接種の中止や区内の被害状況調査を求める陳情書が提出された。国が積極的勧奨を中止したことで、結果的に不採択や継続審議となったが、重要なテーマの陳情には区議や市議が真剣に対応せざるを得ないことが示された。