正月と餅つき
新年が始まり、もう成人の日となった。年末年始には、家族総出で大掃除し、年越しそばを食べながら除夜の鐘を聞いたり、近くの神社に初詣に出掛け、雑煮やおせち料理を食べたりした人も多かっただろう。家族と一緒にそんな楽しい時間を過ごせたとすれば、本当に幸せなことだ。
とりわけ、幼い時期にそんな体験をすれば一生の宝物になる。長く生きていれば、いろいろな体験をするが、子供の頃の家族と一緒に行ったイベントほど心温まる思い出はない。筆者の心に残る一番の思い出は、年末の餅つきだ。
家業の関係で盆暮れ正月はいつも忙しくて、家族皆で楽しく過ごした思い出はあまり多くないが、餅つきだけは別格だった。本家筋のわが家には大きな石臼があって、年末になると祖父母と父母、兄弟に加えて、親戚の叔父・叔母、従弟などが皆集まって正月と越冬用の餅をついた。
祖母と母が前日からもち米やヨモギ、餡を準備し、当日には何段か重ねた四角いせいろでもち米を蒸しあげると、石臼に運んで入れる。男たちが交替で杵をとり、熟練の祖母が返し手となって調子よく餅をつく。最後に子供たちも順番で杵を持たせてくれるのが本当に待ち遠しかった。
つきあがった餅は、母や叔母が中心になって大きな鏡餅に続いて、餡餅や丸餅を作る。子供も手伝うが作るよりも食べる方が忙しい。出来たての餅のおいしさは言葉で表せないくらいだ。残った餅は四角い木の餅箱に詰めて乾燥させた後に切ってせんべいやあられにして、冬の間に焼いて食べる間食になった。
核家族化を通り過ぎて、母子家庭や父子家庭、独居老人が急増する中で、こんな家族との思い出を持たずに大きくなった子供たちが増えているはずだ。心に余裕の持てない毎日が続くが、正月ぐらいは子供や孫の思い出づくりに協力してあげたいものだ。(武)