安易に薬に頼る弊害


 市販薬のインターネット販売をめぐって、楽天の三木谷浩史氏がえらくおかんむりだ。市販薬の99・8%にネット販売を認める一方で、一部は対面販売に限定するとの政府方針が「規制改革ではなく規制強化」だと批判し、立法化されれば政府の産業競争力会議の民間議員を辞任する、と息巻いている。

 そればかりか、医薬品ネット販売を手掛ける楽天の子会社は処方薬をネットで販売する権利の確認を求めて東京地裁に提訴した。対面販売に限定される市販薬は、処方薬から切り替わって3年以内の薬で、安全性が確認されればネット販売の解禁も可能となる。

 それなら「100%解禁」にこだわる必要はどこにあるのか、と怪訝(けげん)に思っていたが、処方薬までネットで売ることを目論(もくろ)むのなら、市販薬は全面解禁でなければ困るわけか、と納得した。

 熱が出たくらいでは病院に行くどころか、市販薬も飲ませてもらえなかった筆者としては、子供は安易に薬に頼らないほうが丈夫に育つと思っている。市販の解熱鎮痛剤や咳止め薬、睡眠改善薬を乱用した若者の自殺企図が増加傾向であるとともに、処方薬が薬物依存症の原因の第2位になっているとのデータもある。

 それなのに、市販薬だけでなく処方薬もネット販売が解禁されたら、必ず良からぬことを考える人間が大勢出てくる。近くに薬局がない住民、高齢者や体の不自由な人にとって、ネット販売は便利だと主張する人もいるが、「薬を飲んでいるから大丈夫」と過信しているうちに、取り返しのつかないことになってしまうことだって考えられる。体調の悪い高齢者は病院に行くべきなのである。

 とはいえ、薬でもネットで簡単に購入できる時代になったのは事実。家庭や学校では、パソコンの使い方を教えるより、薬に安易に頼らないメンタリティを育ててほしいものだ。(森)