理系人材を育てる好機に
毎年ノーベル賞の季節になると、日本中が期待に沸く。今年は大村智氏(80)、梶田隆章氏(56)、ともに地元の地方大学の出身だったこともあり、ノーベル賞を身近に感じた若者も多かったに違いない。
日本人の受賞ラッシュは子供たちの職業選択にも影響を与えているようだ。6月に(株)クラレが行ったアンケート調査では、受賞前にも関わらず小学6年男子の「将来就きたい職業」の2位に「研究者」が浮上している。
ただ、日本人の快挙を手放しでは喜べない。日本は小中学生の学力は世界トップレベルだが、理科好きで学ぶ意欲が高いかというとそうではない。学年が上がるにつれ、理科離れが進み、高校になると物理嫌いが増える。
実は、梶田氏や去年受賞した天野浩氏(55)が高校生の頃は物理履修率は80~90%と高く、物理を教える人材も豊富で、物理全盛期だった。
ところが1982年の学習指導要領改訂以降、一気に30%台に激減。今では20%台に落ち込んでいるという。度々の入試制度改革もあって、自然科学の基礎となる物理を履修せず、トップ大学の理数系に進む学生も出ている。
長らく物理軽視の流れが続いた結果、博士課程進学者が減り、研究者の層は薄くなり、海外流出も起こっている。日本人の受賞ラッシュはいつまで続くのか。偽らざる本音だ。
日本人は基礎学力が高く、こつこつ努力する勤勉性は世界に誇れるものがある。大村教授は「人の役に立ちたい」といつも土壌採取を怠らず、2億人を救う特効薬開発の偉業を成し遂げた。大村さんや梶田さん、多くのノーベル賞受賞者が語る言葉には人生を変える強い力がある。
2020年まで、理科好きな子供の夢や志を育てる絶好期、大胆な理科系人材育成に取り組んでほしい。(光)