米中東政策に同盟国は動揺
イラン支持する米政府
力の空白を埋める敵対勢力
【ワシントン】オバマ大統領は昨年12月、イランがいつか「発展しこの地域の大国」となるところを見たいと語った。この望みは、親欧米のアラブ諸国にとっては悪夢だが、現実になりつつある。
アデン湾-イランは艦隊と武器を搭載した貨物船を送り、イエメンの反政府勢力を強化している。イエメンはイランから遠く離れ、非ペルシャ系で、周辺に脅威を及ぼすこともない。そのイエメンが、この地域の新たなごろつき国家、権力者として振る舞っている。オバマ政権は、空母戦闘群を派遣した。これは、国連のイエメンへの武器禁輸に反する大規模な活動を阻止するためとみられたが、政権は何もする気のないことを表明した。その一方で、イエメンへの空爆を停止し、イランを含む政治的和解交渉を受け入れるようサウジアラビアに圧力をかけている。
ロシア-5年間凍結していた先進型地対空ミサイルをイランに売却することを発表した。これによって、イランの核施設はほとんどの攻撃に耐えられるようになる。オバマ氏は、非難することも、威嚇することも、制裁を科すこともしない。プーチン・ロシア大統領に軽い感じで、「率直に言って、(禁輸が)これほど長く続いたことに驚いている」と言った。
イラン-オバマ氏は、イランとの核合意が交わされても直ちに制裁を緩和することはないという従来の米国の方針をさっさと曲げてしまった。このレッドラインをいとも簡単に越え、本当に重要なのは、イランが合意に反した場合に制裁を科すことができるかどうかだと主張した。だがこれだけにとどまらない。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、オバマ氏は、合意署名に対して300億から500億㌦の褒賞をイラン政府に提供するという。凍結されたイランの資産からのもので、イランの国内総生産(GDP)の約10%に当たる。
シリア-アサド大統領の退陣を何年も前から主張し、米国務長官がイランのかいらいとまで言ったシリアに対して米国は、不干渉政策を取った。
イラク-イランのクッズ部隊のカセム・スレイマニ司令官は、イラク内で自由に活動し、その支配力を見せつけている。スレイマニ氏は、シーア派民兵組織の指導者であり、イラク戦争で数多くの米国人を殺害したが、2007から08年の米軍増派を受け敗退した。3月、同じイラク人民兵組織を率いて、米国の航空支援を受けて、「イスラム国」と戦っている。
これが今の中東だ。戦略的な視点から見た現状は誰の目にも明らかだ。イランが台頭し、何とそれを支援しているのは米国だ。
オバマ氏の当初の中東戦略は、ただ撤退することだった。それによって平和を実現し、戦争の流れを止めて新しい時代の先駆けを作った大統領として歴史に名を残すことだろう。だが、それによって生まれた力の空白は、予測できたことだが、残念なことに数々の敵対する勢力で埋められ、後戻りできないところまで来た。オバマ氏はこれを違った視点からアピールした。ただ撤退するのでなく、バトンを渡したというのだ。だが、相手はイランだった。
オバマ氏は、ニクソン・ドクトリンと同じ道を進みながら、重大な間違いを犯していることに気付いてすらいないのかもしれない。ニクソン元大統領が目指したのは、あの戦争を米国からベトナムに引き継がせることだった。しかし、このドクトリンが展開し、拡大していくとさまざまな小さな勢力が代わりに出現し、それぞれの地域を支配するようになった。ペルシャ湾で米国の代わりに現れたのはイランだった。
オバマ版ニクソン・ドクトリンの唯一の問題は、現在のイランが、欧米化された、世俗的で、親米で、シャーが支配するこの地域の大国ではないというところにある。イランは、過激で、宗教勢力が支配し、強烈な反帝国主義、反欧米感情を持っている。イラン政府の最終的な戦略目標は、公言されている通り、不信心者の米国を中東から追い出し、米国の同盟国を従わせるか、破壊することにある。
米国の同盟国は当然ながら動揺している。米大統領が、融和戦略でイランを穏健化し、さまざまな困難を乗り越え夢の実現に向かわせている戦略と思想をイランに放棄させることができると本当に考えているのだろうか。
イランは、制裁を受け、国際的に孤立し、経済的に行き詰まり、核交渉を受け入れた。原油価格が急落する前ですらこうだった。1年5カ月間にわたって米国が譲歩し続けた結果、イラン経済は息を吹き返し、軍とかいらい勢力は中東のアラブに入りこみ、核保有への野望は認められようとしている。
サウジは、イランの覇権に屈することを拒んでいる。イエメンで戦争を開始した。イランとのイエメンをめぐる交渉を押し付けられることを拒否している。サウジの駐米大使はイランについて「問題は生んでも、解決には貢献しない」と語った。
オバマ氏はそんなことなど意に介していないようだ。イランを中心とした変形ニクソン・ドクトリンを何としても実現しようとしている。イランからの自国の防衛を何十年も前から米国に頼ってきた中東の同盟国は、動揺している。
(4月24日)