イラン核武装へ道開く合意

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

制裁の再開は不可能

地域への核拡散の引き金に

 「イランが核開発能力を持つことを阻止するための交渉…は、核開発能力を認める合意で終わろうとしている」-ヘンリー・キッシンジャー、ジョージ・シュルツ、ウォール・ストリート・ジャーナル紙4月8日付

 【ワシントン】オバマ大統領が核開発能力を放棄させることを明らかにしたのは1年半前のことだ。オバマ氏はその時、イランの強固に要塞化されたフォルダウ核施設、プルトニウムを製造する重水炉、先進遠心分離機はすべて、民生用の核開発計画には必要ないと語った。理屈ははっきりしている。イランは、独自の核開発計画を探求すると主張しているが、それは必要ないということだ。

 しかし、オバマ氏が現在提示している合意案では、これらは一つとして破棄されない。それどころか、イランの全核施設は手付かずのまま、合意された10年間、凍結されたり、他の目的に転用される。フォルダウの遠心分離機は回り続ける。ウランの代わりに、キセノン、亜鉛、ゲルマニウムの供給を受ける。しかし、世界で最も強固に、こっけいなほどに要塞化された医療用アイソトープ工場はいつでも、爆弾工場に転換可能な状態に保たれることになる。

 オバマ氏が6日に公共ラジオ(NPR)で認めたように、合意が失効すると、イランの核爆弾保有までの時間は「ほぼゼロになる」。つまり、自由に、直ちに核爆弾を製造できるようになる。

 ここからがごまかしだ。心配は要らないとオバマ氏は言う。合意を順守するという保証を取り付けると言う。つまり、「かつてないほどの査察」と制裁の「スナップバック(再開)」だ。

 査察の合意は茶番にすぎない。イランは、これまでの核活動に関して国際原子力機関(IAEA)に明確にするという現在の義務すら果たしていない。IAEAは、12項目中11項目で査察を妨害したとしてイランを非難している。

 経験豊かな核専門家であるデービッド・オルブライト氏が指摘しているように、この点が、今後の査察の障害になっている。基準となる情報がない状態で、どこが違法に変更されたとか、加えられたとかを判断することは不可能だ。その上、実効性のある査察の仕組みが全く言及されていない。申告済み、未申告であれどのような施設にも任意に、抜き打ちで査察ができなければ実効性はない。欧州イラン共同声明は、「合意した手順に従ってアクセスを強化」とだけされており、立ち入り査察には一切触れていない。イランの最高指導者は9日、いかなる「特別な監視方法」も拒否することを表明した。

 IAEAは10年間、パルチン軍事施設の査察を許されていない。大規模なファルダウの施設の存在を明らかにしたのはIAEAでなく、イランの反政府活動家らだ。

 違反が見つかった場合はどうすればよいのか。まず、IAEAによる証明が必要になる。その上で国連に報告されるが、ここでイランには抗告の権利がある。それを考慮し、議論し、判断が下される。安保理に送られることになるのだろうが、中国、ロシアなどの反欧米諸国が、イランの弁護人を買って出ることになる。これには数カ月がかかり、それでも中国とロシアがこの判断を支持するという保証はない。

 スナップバック制裁に関しては、米国にとっては最後の切り札だが、これも夢物語だ。一度解除された制裁を再度科すことはできない。中国、ロシア、欧州を現在の制裁の枠組みに取り込むのに10年かかった。一度解除してしまえば、戻ってくることはない。制裁解除後の繁栄へと向かうイランから企業を撤退させる国はない。キッシンジャー、シュルツ両氏が指摘したように、あらゆる段階で非難を受けるのは米国であり、イランではなく米国が孤立することになる。

 オバマ氏はこの合意で、イランを孤立から引きずり出し、領土的野心と思想的過激主義を緩和できると考えている。しかし、これは論理破綻している。制裁が解除され、イラン経済は成長し、国庫に数百億㌦が入るというのに、どうして、中東への覇権拡大をがむしゃらに進めるイランが自制することがあろうか。

 オバマ氏が指摘したように、これらの交渉の最も重要な目的は、イランが核武装した際に必ず発生するエジプト、トルコ、ペルシャ湾岸諸国への核拡散を防止することにある。しかし、今のところ、合意案はイランの核武装への道を開くものであり、サウジアラビアは、合意が交わされれば核武装をせざるを得なくなることを示唆している。

 核拡散を防止するために始めておきながら、実際には拡散の引き金となっている。イランの核開発能力の放棄のために始めておきながら、実際には核開発を正当化しようとしている。米国の中東の全同盟国にとって脅威となるテロの最大輸出国を封じ込めるために始めておきながら、イランをこの地域の経済的、軍事的覇権国にしようとしている。

 これしかないのかと大統領に聞きたい。それに対する答えは決まって、悪い合意でもあった方がいいというものだ。

(4月10日)