生き心地のよい社会


 長らく3万人台で推移していた自殺数は2014年は2万5千人に減った。それでも、交通事故死の6倍。若い世代の死因トップは7年連続自殺である。

 自殺対策を考える上で、近年注目されているのが自殺希少地域の徳島県海部町の存在だ。自殺率が低い町の上位10位のなかで唯一離島でないのが海部町。同町を調査した和歌山県立医科大学の岡檀(まゆみ)さんの著書『生き心地の良い町~この自殺率の低さには理由(わけ)がある』によると、この30年間の自殺率(対10万人)の平均値が全国25・2に対して海部町は8・7。しかも隣接する二つの町の平均値は26・2と29・7。海部町の低さは驚異的だ。

 何が違うのか。岡さんは、海部町の特徴として、①排他的意識が薄い②人を人物本位で評価する③どうせ、自分なんてと考えない④助けを求めることに抵抗が少ない⑤近所付き合いが緊密すぎず、ゆるやかなつながりがある、といった五つを挙げている。

 当たり前だが「助けてくれ」と言えるコミュニティーであることが自殺予防には重要と述べている。日本人は人に助けを求めるのが下手だ。一方、助けを求めても受けとめる人がいない、無縁社会の現実がある。

 海部町には江戸時代から相互扶助組織の朋輩組が今も生きている。いろいろな人がゆるやかにつながり、困ったときは遠慮せず助けを求めることができる。「『生き心地の良い』社会をどうつくっていくかがカギ」と岡さんは述べている。

 長年「いのちの電話」で自殺予防に関わってきたNPO法人CESC代表・末松渉さんは、専門家ではない「素の人」だから、人の心の痛みに寄り添えることが多いという。

 通りで出会った他人(ひと)に笑顔で対し、お声掛けをする。そこに何か思いを感じて、もう少し頑張って生きてみようと気持ちが変わる。そんな生き心地の良い街にしたい。(光)