一番の“介護保険”は妻


 厚生労働省研究班の推計で、全国の認知症の高齢者数は2025年には最大730万人に達し、65歳以上の5人に1人の割合で認知症が増加することが分かった。高齢介護の福祉関係者の間では「2025年問題」と呼ばれている。高齢になればなるほど認知症になる確率が高くなり、85~89歳では40%を超えるという。

 1年ほど前、NPO法人ホールファミリーケア協会で傾聴ボランティアの普及活動をしている山田豊吉さんの話を聞いたことがある。

 今のままだと、団塊の世代が75歳後期高齢者になる2025年頃には、認知症のケアに10兆円の国家予算が必要になってくる。だから大問題なのだという。長寿がもたらした「神の試練」という言い方をされていた。

 自分だけは認知症にならない、あるいはなりたくないと、どんなに思っていても、長生きすれば誰もが認知症を避けて通れないということだ。認知症に至らなくとも、日常の生活で誰かの手助けを必要とする要介護の状態になった時、身近な家族か、施設の介護士か、いずれ人のお世話になる日がくる。

 近居する義理の両親は、子供の迷惑になりたくないと口癖のように言う。アンケート調査をすると、夫の8割は妻にみてもらいたいので、自分より早く逝かれては困ると考えているようだ。平均寿命から言えば、妻が夫の介護をする可能性が高い。

 だから夫は妻を大切にしないといけない。高齢介護を知る人は、男にとって一番の“介護保険”である妻を生涯大切にしながら暮らすことだ、と語る。

 要介護になった時、妻が出す食事が鯛の刺身になるか、それともコンビニのお握りになるか。平均寿命80歳。半世紀に及ぶ結婚生活で、どのような愛情関係を築いてきたのか。夫婦の歴史が老後の介護生活を豊かにも、貧しくもする。(光)