遠い「観光先進国」


 JR山手線や地下鉄を利用すると、外国人の姿を見掛けることが多くなった。外国人が魅力を感じそうな旅行商品の開発や広報活動などの努力が功を奏していることもあるだろうが、円安の影響力は絶大だ。

 そう思っていたら、9月の訪日外国人客数が同月としては過去最高となった、と政府観光局が発表した。しかも、8カ月連続で、前年同月を上回ったそうだ。

 政府は成長戦略の一つとして、2030年までに、外国人観光客を年間3000万人超を達成し、「観光先進国」になることを目標に掲げている。その第一ステップとして、今年は1000万人突破を目指している。その可能性が見えてきたのだから喜ばしい。

 そして今、富士山の世界遺産登録、東京五輪招致などを追い風に、さらに外国人の心をつかもうと、日本の魅力を高めるアイディアがさまざま出ている。その柱として注目されるのが「おもてなし」の心だが、その割には、外国人を不快にする社会の悪弊を直そうとの声が上がらないのはどうしたことか。

 たとえば、電車に乗れば、ヌード写真掲載の週刊誌やスポーツ紙を恥ずかしげもなく広げる男性がいる。車内の中吊り広告にも若い女性の水着写真が大写しされている。車窓からは、物干し竿に洗濯物がぶら下がっている光景が見える。これでは観光先進国のおもてなしとしては失格である。

 イスラム圏からも観光客を多く招きたいということで、「ハラール」を遵守(じゅんしゅ)した食事を出すホテルや旅館が増えているが、戒律に厳しいイスラム圏に限らず、公衆の面前でヌード写真を見ることをタブー視する国は多いのである。そんな国からやってきた旅行客は、日本の性モラルのルーズさを見て、どう思うだろうか。

 円安に頼らなくても、文化の力によって十分外国人を引き付けるのが真の観光先進国。目標達成までの道程(みちのり)はまだ長い。(森)