新しい着想を得るには


 「ここに補助線を引くと、この直線(角)とこの直線(角)が平行(同じ大きさ)になって…」

 中学の数学の時間。図形の問題で、こんな説明をよく聞いた。その時は「あっ、なるほど。そうか!」と思ったが、実はこの説明、何の助けにもならない。「どうして、そこに補助線を引くのか」という肝心要のことが出てこないからだ。

 だから、実際の試験になると、限られた短い時間に適した「補助線」を見つけるのに苦労する。それで思うのは、最初にその問題を解いた人は、どうしてその補助線を引く発想を得たのだろうかということだ。

 先日、日本人3人がノーベル物理学賞を受賞した。青色発光ダイオード(LED)の開発によるものだが、世界で初めて窒化ガリウムの結晶化を成し遂げ、それを実用化したことが評価された。では「世界で初めて」の結果がなぜ生まれたのか。名古屋大の天野浩教授によると、試行錯誤を繰り返す中で、たまたま電気炉の調子が悪く温度があがらなかった時に、実験を続行したらその低温が功を奏してきれいな結晶ができたという。

 製品化で成果を上げた米カリフォルニア大サンタバーバラ校の中村修二教授も、朝7時に出勤して前日の反省をもとに装置を改良し、午後から再び実験するという試行錯誤を繰り返し、500回以上の失敗を経て世界一の結晶薄膜成長装置を作り上げたのだという。

 日本人で初のノーベル賞(物理学賞)受賞者となった故湯川秀樹教授は、一日中研究室や講義で一生懸命に仕事をした上で、夜、ベッドの上で2、3時間はいつも研究の線に沿って「月並みでない」ことを考える。こんな生活を繰り返す中、ある夜、ベッドの中で中間子の着想を得たという。

 新しい着想を得るためには、やはり地道で集中的な努力と試行錯誤によるしかないということか。(武)