『永遠の0』に学ぶ


 公開中の映画『永遠の0』を見た。太平洋戦争時に、「臆病」と蔑(さげす)まれようとも愛する家族のために生きて帰ることに執着し、しかし最後は特攻を志願して命を落とした零戦の天才パイロットを主人公にした作品で、すでに動員370万人に達した。

 また、原作も400万部を突破するミリオンヒットとなっている。映画は感動的だったが、やはり原作を読まれることをお勧めしたい。

 作家・百田尚樹さんの作品で、最初に読んだのは時代小説『影法師』だった。強者に阿(おもね)らず、多数に付和雷同せず、信念を持って誰かのために生きる男の姿を描いているという点で、二つの作品は共通している。

 月刊誌上における安倍首相との対談で、百田さんは『永遠の0』のテーマは「人は誰のために生きるのか」と「命の大切さ」と語っている。原作も映画も大ヒットとなっているのは、このテーマが見事に描かれ、人の心を打つからだろう。

 先頃、亡くなった元陸軍少尉の小野田寛郎さんは30年間のジャングル生活で一番苦しかったことは「戦友を失ったこと」と語っていた。身近な人の命を大切に思うことは当たり前のことだが、その感性を備えた人が少なくなったことが社会の乱れの根底にあるのだろう。これは普遍的な教育課題でもある。

 原作に、印象的な描写がある。若いパイロットたちが命を賭して勇敢に戦う一方で、命令を下す司令官らの優柔不断と責任意識の欠如だ。東大に入学するより難しいと言われた陸・海軍の士官学校卒業生は当時の超エリートだが、序列や横のつながりの強さに縛られ無責任になる心の弱さがあった。戦争の犠牲が拡大したことに関わる日本の組織的弱点と言える。

 組織に従属せず、自立した精神と強い責任感を持つエリートをどう育てるのか。こちらも教育における今日的課題である。(森)