受刑者の心開くラジオ
富山の住職DJ、34年語り続ける
富山刑務所(富山市)で毎月1回放送されるラジオの長寿番組がある。清源寺の住職川越恒豊さん(72)がディスクジョッキー(DJ)を務める「730ナイトアワー」。全国初の受刑者向けラジオを34年間休まず続ける川越さんの語りは、受刑者の心を開かせ、犯した罪と向き合うきっかけになっている。
「こんばんは。プロ野球楽天の優勝、うれしかったですねえ」。午後7時半、川越さんと番組アシスタントのフリーアナウンサー井上真帆さん(29)との軽快なトークが始まった。所内の一室から、ハンドマイクで90分間の生放送。リスナーの約450人の受刑者と2人を結ぶのは、80通ほど寄せられる曲のリクエストカードだ。毎回約15通を紹介し、2人がコメントしていく。
北島三郎やAKB48などの曲名と共に、出所後の不安や迷惑を掛けた人への謝罪、恋人から手紙が来た喜びなどの心情がつづられる。川越さんは「彼らが通ってきたのは、否定され続けてきた人生。ぬくもりのある言葉を掛けることで、被害者に思いをはせることができる」と考える。びっしりと文字で埋まるカードを前に、井上さんも「これまで誰かに話を聞いてもらうことがなかったのだろう」と思いやった。
番組は1979年に開始。同刑務所の教誨(きょうかい)師だった川越さんが地元民放ラジオに出演したことがきっかけだった。月の最終月曜の放送は、これまで387回を数える。打ち合わせなしのぶっつけ本番だが、話題は時事問題や仏教用語の解説など幅広く、「タイムリーな話題が楽しい」「勉強になる」との声も寄せられる。
教育統括刑務官の浜松靖憲さん(48)は、「真面目で優しい川越さんの人柄が、受刑者の心を和ませる」といい、「投稿から彼らの生い立ちや気持ちが垣間見られる」と話す。
「就職しました。刑務所には二度と戻りません」。寺には元受刑者から感謝の手紙や電話がたびたび来る。川越さんは「再犯を防ぐためにも、社会に彼らの受け皿が必要」と訴えている。