高橋政代リーダー、「心の叫び」胸に刻み


網膜の再生医療研究を始めて18年、今も眼科医として診察

高橋政代リーダー、「心の叫び」胸に刻み

理化学研究所の幹細胞培養室で、実験を視察する高橋政代プロジェクトリーダー(左から2人目)=2013年2月、神戸市中央区

 iPS細胞の臨床研究を率いる理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダー(53)は、網膜の再生医療研究を始めて18年になる。「臨床研究は始まりの始まり」。節目ごとに口にする言葉の裏には、「研究人生が終わるまでに(一般的な)標準治療にしたい」との強い思いがある。原動力は、今も眼科医として診察を続ける中で接する患者たちの「心の叫び」だ。

 高橋氏は大阪府豊中市出身。京都大医学部を卒業と同時に、現在iPS細胞でパーキンソン病の臨床研究を目指す高橋淳京大教授と結婚、「家庭と両立できるように」と眼科医の道を選んだ。子育てとの両立は厳しく、「限界を見た」と感じたこともあった。35歳の時、夫と共に留学した米ソーク研究所で、網膜再生の端緒をつかんだ。

 「患者の悩みを解決するという目的があれば、研究は横道にそれない」と信じる。講演では視覚障害を持つ患者の苦痛について理解を求め、「死亡率こそ低いが、失明を抱えて生きるのは負担。社会的損失も大きい」と繰り返し訴えてきた。

 一方で、ユーモアあふれる人柄が垣間見えることも。理系女子(リケジョ)を対象にした講演では「1分野を極めるのは難しいが、二つの領域の間には新発見が生まれ得る」と説き、学生らに2分野専攻(ダブルメジャー)を勧めた。「家庭と職場というダブルメジャーの女性は強い」と激励し、「孫が生まれたら、今度はちゃんとやるから育てさせてと娘に言っている」と笑わせた。

 長年走り続けてたどり着いた「始まりの始まり」。その続きを、既に思い描いている。「20年後には研究や再生医療と合わせ、リハビリテーションや予防医療が大きな産業モデルになる。夢が夢ではなくなってきた」。