有効な手だてない北朝鮮の核膨張
北朝鮮が国際社会の監視の目をくぐり抜けるようにして電撃的とも言える核実験に踏み切った。仮に北朝鮮が主張する通り過去3回のプルトニウム型、ウラン型をはるかにしのぐ威力の水爆実験だったとすれば、日本や韓国など周辺国はこれまで経験し得なかった重大な脅威にさらされていることになる。
実験に伴い感知される地震の規模などから判断し水爆の可能性は低いとの見方もあるが、一方で生き残りを懸けて一貫して核開発に突き進む北朝鮮が「核保有国」は言うまでもなく、いずれ「核大国」入りするのを防ぐ有効な手だてを見いだせていないという現実を忘れてはならない。
今年は金正恩第1書記が父、金正日総書記死去で名実ともに最高指導者になってからちょうど5年。「金正恩色」を前面に出し始める時期であり、8日の自身の誕生日を前に「祝砲を鳴らしたい」(韓国専門家)という思いもあったかもしれない。
北朝鮮が核実験をする際に常に配慮してきたのが国際社会で「大国」を演じたい中国だが、今回は事情が違った。金第1書記が実験を承認したという先月15日は、金第1書記の肝いりで結成されたガールズユニット「牡丹峰(モランボン)楽団」の中国初公演が急遽(きゅうきょ)中止になったわずか3日後だ。これをめぐり体制や最高指導者を礼賛する曲目を中国に拒否された金第1書記が気分を害しドタキャンしたという情報がある。実験は中国に配慮しなくてもいいタイミングを見計らったものだった可能性がある。
中国は今回の北朝鮮による「水爆実験」を非難しているが、内心は違うはずだ。北東アジア安保で米国とぶつかる中国にとり、核という危険な手段とはいえ自分に代わり米国を揺さぶり非難する北朝鮮ほど戦略的価値の高い「駒」はない。(ソウル・上田勇実)