長野氏「憲法9条改正は段階経て」
世日クラブ新春対談
戦後70年日本の針路を展望する
木下 伝統尊重の道徳教育が大切
元衆議院議員で政治評論家の長野★(示に右)也(すけなり)氏と木下義昭本紙主筆兼社長が2月20日、世界日報の愛読者でつくる世日クラブ(会長=近藤讓良・近藤プランニングス代表取締役)で「戦後70年日本の針路を展望する」をテーマに新春対談を行った。木下主筆がまず今年の主要国の動向を概観し、長野氏が政局を読み解くカギになる政界キーパーソンの人物評価を述べた上で、安倍内閣の主要課題と野党再編の行方について語り合った。以下はその抜粋。(示に右)
長野 アベノミクスの好循環に期待
木下 日韓米連帯強化し対北政策を
木下 安倍内閣の主要課題について、まず外交・安全保障では、昨年、集団的自衛権の行使を閣議決定した。これをアメリカはどう見ているか。
長野 アメリカは歓迎している。公明党との妥協の中で生まれた限定容認という考え方は、自衛隊を結構縛っているので不十分だが、批判はしないという姿勢だ。アメリカが最も嫌がっているのは、日本政府の説明が不適切で、中国や韓国との間に新たな溝ができることだ。外交努力を十分に重ねてうまくやってくれよというのが本音だろう。
木下 私がアメリカの特派員のとき、現地の有識者に日本の憲法改正について尋ねると、「それはあなたがたの国のことなのだから、やりたいようにやったらどうですか」と言われたが、当然のことだ。
長野 日本の憲法改正は日本人が判断すべきだ。ただ、勢い余って戦後の東京裁判の否定のような歴史修正主義に広がることは望んでいない。
木下 経済では、株価が最高値を記録しているが、安倍首相のアベノミクスの行方をどう見るか。
長野 大企業の賃上げが今後5年連続で行われれば、中小企業にも波及し、アベノミクスは確実に進んでいくだろう。ただ、その間の格差の拡大という副作用と1年半後に実施する消費税率の10%への引き上げをどう乗り越えるかが問題。軽減税率の導入が、大変重要な意味を持ってくる。GDP(国内総生産)も、まだ力強さには欠けるが上向きだ。アベノミクスが好循環で行き渡ることを期待感を持って見ている。
木下 賃上げと同時進行的に、ローカル・アベノミクスを進めなければならない。
長野 地方創生は短期的に結果を出すのは難しい。知恵のあるなし、人材の育成・確保で、まさに自治体間の弱肉強食の競争が始まるわけで、すべての自治体が豊かになるというのは困難。そのことを時間を掛けて分かってもらうことが大事だ。そうした中から、新たな社会資本の集積地点をどこにするかという努力が生まれてくるし、自治体の消滅ではなく、「自治体の集約」が当然の帰結になる。
木下 日本創成会議のデータによると、今のままでは2040年までに896の地方自治体が「消滅可能性都市」になるという。先日、私の出身地新潟県の泉田裕彦知事とこの件で話をしたら、「私たちも必死に考えている」と深刻な様子だったが、ローカル・アベノミクスについては、「地方自治体の長として自分たちが、地方発のビジョンを提案するから、予算をきちんと手当てしてもらえば新潟は良くなる」と前向きに捉えていた。
次に、教育問題。今の日本は、道徳教育が非常におろそかになってきたが、下村博文氏が文部科学大臣に就任してからは、日本の伝統文化を尊重し、子々孫々に伝えていくという道徳教育については、かなりしっかりやっている。
長野 戦後の教育は、個性の尊重に偏重し、公共心、規範意識を育てる指標がないがしろにされてきた。これを見直すため全面的に支持したい。
木下 下村大臣には、道徳が日本の教育に絶対必要だ、という信念があり、教育改革も着実に取り組んでいる。
ただ、地方自治体にはそれと逆行する動きもある。東京の渋谷区は、同性カップルに結婚に相当する関係と認める証明書を発行するとする条例案をまとめ、3月区議会に提出する。これは他の自治体にも波及するおそれがある。
最後に、与野党の行方について。まず、与党の自公協力関係は続くか。
長野 これは想定の話だが、憲法改正で、自民党が維新の党と次世代の党との連携を優先し、公明党を外すまで続くと思う。憲法改正の中身で、公明党は民主党と近い立場をとっていくことは考えられる。だから最初は、財政規律規定や緊急事態事項、環境権など野党も巻き込める範囲でやり、国民には国民投票に慣れてもらって、最終的に本丸の9条にもっていくという段階を踏む考えだ。9条がテーマになるまでは公明党との協力は続くだろう。ただ、自民党は懐の深い政党で、公明党の党内事情の限界点を見極めながら、落ち着くところに落ち着かせる知恵を持っている。
木下 次に野党。民主党はゴタゴタしながら岡田体制が出発したが、党内はしっくりいっていない。民主党が再生できるのか。かなり疑問だ。
長野 4月の統一地方選の結果を見ないと党再生の見通しは立たない。
再生のポイントはやはり党のガバナンス。民主党の組織統治力に対する国民の信頼がない。自民党は最終的には党内の異論、反対論を抑え込むガバナンスがあり、それが信頼に繋(つな)がっている。民主党にはそれがない。
それから、岡田代表は昔の社会党左派系議員に支えられているから改革は難しい。党改革ができなければ政権を取るなんてことはできない。細野氏(政調会長)のような第3世代、つまり、民主党誕生後に当選した世代が力を付けてリーダーシップを発揮しないと、民主党は再生しない。だが、それはなかなか難しい。
木下 他の野党をまとめてお願いします。
長野 維新の党以外は論外。5月17日に大阪都構想の住民投票がある。維新はこれに命運がかかっている。橋下徹大阪市長が勝てば維新は息を吹き返す。安倍総理は憲法改正の同志として維新の党を当てにしているが、橋下氏が引いて江田憲司代表が前に出てくると、この目論見は崩れる。橋下氏と江田氏との遠距離恋愛の成否は、やはり来年夏の参院選の結果次第。江田氏が民主党に近寄り過ぎると破綻するかなと見ている。ワンイシュー政党は長続きしない。
木下 みんなの党みたいに。
長野 そう。そういう野党が連帯しても大したことはない。野党再編を嫌う旧社会党系議員の力を借りて岡田代表が勝ったので、彼は再編論に与(くみ)するわけにはいかない。民主党が自力で党勢を拡大し、一方で維新の党の継続が困難になる局面になれば、新たな流れが見えてくる。それまでは個別の案件で連携はできても選挙協力には至らない。
今年の主要国の動向
木下主筆
米国 オバマ政権は完全にレームダック(死に体)状態。ロシアのクリミア半島編入やウクライナ東部への介入に対しほとんど何もできないし、対「イスラム国」でも腰が引けている。下手なことをして名前を汚すのを避け、キューバとの関係改善で任期を終えたいというのが見え見え。
来年、大統領選挙があるが、いま民主、共和党それぞれ数人有力な候補が出てきている。共和党は、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事、スコット・ウォーカー・ウィスコンシン州知事が有力視されているが、民主党のヒラリー・クリントン元国務長官が出てきたらちょっと手ごわい。知名度は抜群、政治感覚は見事だ。
英国の秘密情報部(SIS)と交流の深い外交関係者から聞いた話では、米下院では、民主党、共和党を問わず、下院議員のオフィスにはほぼ100%、中国系のスタッフが入り込んでいて、中国は米国の手の内をほとんど知っているという。
英国は、この危機的状況を非常に警戒している。
中国 米国国債の一番の買い手は中国だ。昨年2月時点では、1兆2729億㌦を保有している。こうした力関係を背景に習近平主席は米中首脳会談で「米中関係発展の青写真を描き、太平洋を越えた協力を展開したい。広大な太平洋には両大国を受け入れる十分な空間がある」と述べている。つまり「太平洋を中国とアメリカで分け合おう」というのだ。
太平洋に出るためには、沖縄、尖閣諸島を自由に通航するルートが欲しい。サンゴ漁を名目に漁船をどんどん送り込み、そのための既成事実化を図っている。中国は共産主義国家だという認識を持ちながら警戒をする必要がある。
ロシア クリミア半島を制圧して、編入。ウクライナ東部への介入に西側諸国はほとんど手出しができないので、プーチン大統領の勝ちだ。プーチンは柔道の寝技が得意。安倍首相とも仲が良いが、いつ寝技を掛けられるか分からない。
韓国・北朝鮮 在韓米軍は今年12月に、戦時作戦統制権を韓国軍に移管する予定だったが、北朝鮮の動きが不穏なので、2020年代半ばまで延期することにした。北朝鮮は、卓越した外交力を持っている。
朴槿惠大統領は日韓関係を改善し、日韓米の連帯を強化した上で対中、対北政策をやっていかないと非常に危険だ。
北朝鮮の本音としては日朝国交正常化をやって、日本からの賠償金や経済援助が欲しい。拉致問題はそのための切り札。今は安倍政権の行方を注視しながらカードを切るタイミングを見計らっている。
「イスラム国(IS)」 イラクのフセイン独裁政権時の中心政党としてバース党というのがあった。これはアラブ社会主義復興党で、マルクス主義者が相当入り込んでいた。
この残党が「イスラム国」に加わっている。イスラム教を名乗りながら、その実態はマルクス・レーニン主義だ。だから、暴力革命も殺人も平気。宗教の名前を使ったテロ暴力革命集団と理解すべきだ。
政界キーパーソンの人物評価
長野氏
安倍晋三総理 第1次内閣の失敗から学んで安定感が増した。内閣支持率も上がっている。ただ、安倍総理に注文したいのは、「もっとストイックになって、沈思黙考せよ」、ということ。
総選挙後の新年に、ゴルフ、映画鑑賞、芸能人との会食。これはお粗末。沈思黙考して一年の政治を振り返った形跡がない。中曽根康弘元総理は本当に読書家だった。池田勇人元総理も在任中はゴルフを絶った。1億2000万人のリーダーはストイックでなければならない。
麻生太郎副総理 安倍総理にとって、一番よく利く精神安定剤。岸信介を意識する安倍と吉田茂を意識する麻生。祖父の出会いを通じた接点・連帯感がある。麻生氏は何でも相談できるという安定剤になっている。
菅義偉官房長官 ナンバー1を目指さない「ナンバー2の強さ」がキーワード。安倍氏の総裁選出馬の際、2回ともその背中を押した。特に1回目のとき、周りの反対で迷っていると、「こういうチャンスは二度とない。今のあなたを見せなさい」、と後を押した。これが今の安倍総理につながっている。
総理を立てて目立たないようにして、議論が熟したところで口を挟んで調整する。最近珍しい安定した官房長官。
石破茂地方創生担当相 中曽根元総理は行政管理庁長官を務めたことがある。これは閑職。ところが、行政改革、国鉄民有化、いろんなことをやって総理への道を開いた。第二の中曽根になれるかどうかの正念場だ。「末ついに海となるべき山水もしばし木の葉の下くぐるなり」、という心境でいたほうがいい。
説得力は国会議員随一。国会答弁も非常に安定している。理屈っぽさから一歩抜け出し、根回しもできる人間力が付いてくると道が開けるか。
高村正彦自民党副総裁 自民党副総裁といえば、昔なら大野伴睦、金丸信、最近では大島理森と一癖もふた癖もある。彼は外務大臣を2回やった外交のプロで、副総裁のイメージを変えてしまった。日中友好議員連盟会長でもあることは、逆説的に安倍内閣にとって意味がある。
谷垣禎一自民党幹事長 超まじめ、優等生幹事長。地道だけれど、自民党が政権復帰できたのは、野党時代の谷垣総裁の力によるところが大きい。なかなか芯の強い男で、周りは、「イエスマンになっている」と心配するが、涼しい顔だ。総裁再選の環境づくりを一生懸命やって、安倍総理からの禅譲を狙っている。
二階俊博自民党総務会長 朴槿惠大統領と会談をして、存在感を上げてきている。安倍総理が今、最も神経を使っているのが二階氏。その二階氏が「自民党の中にライオンもトラもいなくなった」と嘆いている。つまり自分がそれだということだ。
山口那津男公明党代表 竹入、矢野、石田、神崎、太田と、今までの指導者は武闘派で脂ぎっていて、全身の風圧で相手に威圧感を与えるような人が多かったが、親しみ、気さくさがある。公明党の代表は、われわれが思っている以上に非常に難しい役回りで、自民党の全く体質の違う安倍晋三という人と付き合い、一方で、創価学会に支えられている。直談判で安倍総理と対決することが起きるのかどうか。リーダーとして正念場、真価を問われるときが近い。







