フロリダのお年寄り


マイアミの風

 友人のカズコさんはポーランド系米国人と結婚していて娘が一人いる。ご主人の父上は現在93歳で食事に留意していたせいかスリムで、いたって健康な御仁である。夫人を病で亡くして以来一人で住んでいたのだが、さびしさゆえかいろんな得体のしれない人物が出入りするようになって、カズコさんは夫と相談して父上を引き取ることにした。

 息子夫婦の友人である私たちが訪ねていくと、口数は少ないものの昔の話や古い写真を出してきて説明してくれた。行くたびに同じ話と写真につきあうことになったが…。第2次大戦終了間際、エルベ川でのソ連軍と連合軍の歴史的出会い後、米軍は苦手なソ連軍と友好的交流をすることになる。しかしロシア語を話す米軍兵は少なく、ポーランドに生まれ12歳で米国に移住しロシア語が流暢な氏は、二十歳(はたち)そこそこの兵士だったが通訳として用いられた。当時の思い出を聞くと、「いやあ、ずいぶん女性にもてちゃったよ」とウインク。

 そんなおじいさんも息子夫婦と孫に囲まれて平穏だったが、近年は徘徊がはじまり、息子しか認識できなくなった。朝起きてきたおじいちゃんが、カズコさんに毎朝「あんた誰?」と尋ねるようになった。おじいちゃんの世話が大変になりながらも、カズコさんは義父を施設に入れずに、ご主人が家で仕事をするようにして世話をしていたのだが、どうにもならなくなり1年前に施設に入れた。年金があるため施設はすぐに受け入れてくれる。

 父親の世話でどこにも出かけられなくなったご主人だったが、最近カズコさんとわが家を訪ねてくれた。見違えるほどご主人が若々しくなっていた。ずいぶん苦労していたんですね。

 息子さんがホームを訪ねると、お父さんは痩身に白髪をたなびかせ部屋の中を黙って歩いているそうだが、同室のおじいちゃんが息子さんに子供のようにつきまとって離れないらしい。

 カズコさんの義父にはアトランタに住む娘もいる。娘夫婦はビジネスで成功して豪邸に住んでいて父親を引き取ろうとしたらしいし、住んでもみたらしいが、おじいちゃんはカズコさん夫婦のもとにすぐ帰りたがり、娘もあきらめたようだ。実の娘よりも日本人の嫁と住むことを選んだおじいちゃん、何か琴線に触れるものがあったのでしょうね。

(マイアミ在住)