戦後70年という年月


マイアミの風

 投票権を持つ米国人の青年に「ねえ、誰が本命?」とたずねたら、即座に「トランプ!」と言うので思わず笑った。

 続けて彼は「共和党、ろくなのいないんだよ、ほかに」と。「じゃあ、ヒラリーさんが勝つの?」とつっこむと、「彼女がなったらアメリカは終わりだよ」「サンダース氏のほうがずっといいよ」

 「でも、あの方(サンダース氏)ではちょっと善良すぎて国際舞台ではどうかな」と言うと、「ホント、いい人なんだよ。飛行機だってエコノミークラスだしさ。ヒラリーだったら絶対乗らないよ」と話がだんだん背が低いだの、ブーツをはくだのといったたぐいの日常生活に移行してきたので会話終了。

 今回の大統領選、舞台映えする人物が出てこなくなったことに、一つのポイントがあると思う。それは第2次大戦後の70年という年月にも関係している。大戦後世界の舞台に躍り出た米国は全てにおいて主役を果たしてきた。大統領は特に米国のすべてを象徴する存在だった。しかし主役を張り続けることはできない。いつかは次にバトンタッチしなければならない。だがそうした時に来ているにも
かかわらず、米国人は「次の誰」をイメージできないのだ。

 話は飛ぶが、戦後70年をへて今まで見る機会のなかったフィルムが公開されていて驚くことが多い。昭和天皇の終戦の詔勅も「耐えがたきを耐え…」の箇所しか私は聞いたことがなかったのに、原盤の再生盤すべてを聞いて非常に驚いた。深く長く思いのこもったお言葉であった。

 さらに同盟国であったドイツの敗戦時のフィルムをみると胸が痛くなる。敗戦の処理を担当した米国などの連合国軍の裏面をも明らかにする資料が数多く出てきている。

 70年という時は、反省や賠償、他国に責任を強要するためにあるのではない。米国に住んでいると、天皇・皇后両陛下が戦地の慰霊を続けておられることに深く感動するのである。今年は激戦地フィリピンをご訪問されるという。両陛下のお姿に歴史に責任を持たれる潔さ、激情を感ずるのである。

(マイアミ在住)