日韓関係よくする秘訣


 韓国で長く特派員を務めた筆者はよく「日韓関係をよくする秘訣はないか」と尋ねられる。そんな特効薬みたいなものがあれば、私の方が教えていただきたいというのが正直な気持ちだ。長く「未来志向の日韓関係を築こう」と言われてきたが、この未来志向のとらえ方自体が日本と韓国で異なる。もちろん、過去や現在よりも未来に重点をおいて考えるという点では同じだが、未来に向かうための方法が違う。

 日本は、過去は水に流して未来に向かおうとする。これは古事記の伊弉諾尊(いざなぎのみこと)にまで遡(さかのぼ)る禊(みそぎ)の思想に他ならない。この際、滝に打たれたりする行為は象徴的な契機(けいき)にすぎず、過去の罪を抱えながらも、それをありのままに受け入れて感謝して乗り越えていく心的過程が中心となる。

 これに対して韓国の場合は儒教(性理学)の影響を受けた名分論が頭をもたげる。つまり、未来に向けた行動を起こすためにはその正当性を主張するための大義名分となる具体的な行動が必要となってくるのだ。未来志向的な関係を築くために、まず「慰安婦」問題の解決が必要との主張はその典型のように思われる。

 さらに、日本流に水に流す作業の前提は現実をありのままに受け入れることだから、事実確認は極めて厳格だが、韓国の名分論は事実そのものよりはその是非善悪の判断が重要となるので、現実認識は一面的なものになりやすい。だから事実認識から違ってくる。

 こんな具合だから未来志向を唱えながら、なかなか同じ入り口に入れない。どうしたらその隘路(あいろ)を突破できるのだろうか。筆者の考えでは、歴史や地理、政治、経済、軍事、その他の国内・国外情勢など、あらゆる事情を考慮して大局的な観点からまず自らの戦略的な目標を定め、ぶれずにそれを実現していくしかない。最悪の日韓関係を好転させた徳川家康や朴正煕元大統領のように。(武)