異文化観光客のおもてなし
日本を訪れる外国人旅行者が昨年、初めて1000万人を突破した。観光立国を目指す政府は将来、この数を3000万人に増やす計画で、観光ビジネスはおせおせムードだが、計画成功のカギとして強調されているのが“おもてなしの心”。
そんな中で、難しいのはイスラム圏からの観光客のもてなし方だ。同じ文化圏ならあまり問題はないが、異文化、とくに日本人になじみの薄いムスリムの場合は注意すべきことが多い。
そこで、関心が高まってきたのが「ハラール・ビジネス」。ハラールとは、アラビア語でイスラム法で認められたものや行為(禁忌はハラーム)を意味する。豚肉やアルコールが禁忌であることは知られているが、その対象は広く、日本には対応できる宿泊施設や土産はあまりない。
このため、食料品などハラーム認証の製品づくりはビジネスになるとして参入する企業が増え、旅館や飲食店などを対象にしたセミナーも開かれている。ムスリム観光客に気持ちよく日本に滞在してもらい、「また来たいな」と思ってもらうための努力は歓迎すべきことだが、現在の動きの中で抜け落ちている視点があると思えてならない。
ムスリムは男女関係に厳しく、女性が肌を出すことは非常にはしたないことだとされている。彼らをもてなす場合も性倫理には細心の注意が必要だが、その配慮がすっぽり忘れ去られている。
たとえば、電車の中。ヌード写真掲載の広告はあるし、下品な雑誌を広げるサラリーマンもいる。海外ではあまりない光景だから、驚く外国人は多いだろうが、とくにムスリムは気分が悪くなり、「子供に見せるべき光景でない」と憤慨するに違いない。
ハラームへの関心の高まりはビジネスの観点からだが、利益にならなければその価値観に関心を持たないというのではおもてなしの心から程遠い。(聖)