真っ直ぐに生きる


 昨年、NHKラジオの番組で、リスナーに70年代の思い出の曲を投票してもらってランキングを付けたことがあった。第1位は森田健作氏(現千葉県知事)の『さらば涙と言おう』。筆者も若かりし頃、森田氏主演のテレビ番組『俺は男だ』を毎週欠かさず見ていたので、なつかしくなって耳を傾けたが、最後の方の歌詞を聞いてちょっと驚いた。

 「恋のため愛のため、真っ直ぐに生きるため、泣けることもあるけど、さらば涙と言おう」

 恋、愛というのは今も変わらぬ歌謡曲のテーマだが、その後に「真っ直ぐに生きるため」と出てくる。70年代初めには、何気なく聞き過ごしていた部分だが、今は「こんな歌詞があったのか」と、非常に新鮮な響きをもって聞こえてきた。

 「真っ直ぐに生きる」の英訳をYahooの知恵袋で調べると、『Live honest to myself』がベストアンサーになっていた。自分自身、つまり自分の心の素直な思いに正直に生きるというぐらいの意味だろうが、日本では「人として正しく生きる」という意味がもっと強く含まれているように思う。

 もちろん、そこには「人として歩むべき道=人の道=がある」ことが暗黙の前提になっているが、この「人の道」が何なのかもはっきりしないし、自分の心の素直な思いが何なのかもよく分からない。確信をもって「真っ直ぐに生きる」ことを教えられる親や先生が既に“絶滅危惧種”になってしまったようにも思われる。

 1990年に歌手の長渕剛が『Myself』で「だから真っ直ぐ、真っ直ぐ、もっと真っ直ぐ生きてえ」と叫んだが、それから二十数年が過ぎた現在、真っ直ぐに生きにくい環境がますます拡大したようだ。安倍政権は「教育再生」に力を入れているが、「真っ直ぐに生きる」ことを教えられなくなって久しい家庭や学校を変えていくのは簡単ではない。(武)